第62話 今までの行動が
「ぐうぅっ!」
カイくんの体の上に、私は勢いのまま倒れ込む。加速の世界が終わり、頭と身体を激痛が襲う。そのまま動くことも出来ずにいると、涙混じりの声と小さな手が私を叩いた。
「このっ! よくも兄さんをっ! バカバカバカ!」
「ちょっ、ちょっと待って。痛たたっ! 大丈夫、カイくんは無事だからっ」
痛い、痛い! ただでさえ体がバラバラになりそうなのに、子供とはいえ全力で叩かれると……っていうか、この子結構力強いな!
私は苦労して、体をずらす。覆い被さっていた私が動いたことで、首に一筋傷をつけただけのカイくんと、地面に刺さっている私の剣があらわになった。ぺたんと座り込んで「良かった」と泣くサイくんを、起き上がったカイくんが抱きしめる。
「良かった。サイくん、願ってくれてありがとう」
ほんと、やばかった。聖戦の強制力の半端なさったらないわ。途中から段々正気じゃなくなって、サイくんが願ってくれなかったら本当にカイくんを殺す所だった。
「良くないよ、バカ! 勇者なんて大っ嫌い!」
カイくんにしがみついたままのサイくんに涙目で睨まれた。
「クロリス様っ!」
息せき切って階段を登ってきたのは、メイちゃんとゲルパさんだ。儀式が終わったから部外者の二人も登れたみたい。
「メイちゃん、皆は?」
「モンスターと交戦中です。また無茶しましたね。もう!」
メイちゃんは頬を膨らませてから、私に回復魔法をかけてくれた。痛みが引く心地よさに目を瞑る。これでまだ動ける。目を開けると、ゲルパさんに回復してもらったカイくんが立ち上がっているところだった。
「カイくん、もうひと踏ん張りいける?」
そう言って私は懐から、なんの変鉄もない石を取り出す。賢者レナティリスさんから貰った魔力を回復する石だ。ちなみに私の分はゲルパさんの作。
「当たり前だよ」
石を受け取り、にっと笑ったカイくんは、すっかり頼もしい男の子の顔だ。二人で神殿の最上部の端から下を見て、息を飲んだ。
そこにいたのは恐ろしく巨大で、恐ろしく禍々しい、モンスター。上半身は人と言える。肩からうぞうぞと無数の蛇の頭を生やしていなければ。下半身は巨大な蛇がとぐろを巻き、ぬらぬらと滑っていた。赤い目からは炎が吹き出し、その巨体は頭が雲にかかるほど。神殿の最上部とほぼ同じ高さだ。
巨大モンスターが顔を傾ければ、両目から溢れた炎が地面に落ちて大地を焼く。のっぺりとした顔に、ぽっかりと空いた穴のような口からは、白く凍てつく冷気が吐き出した。
そして、神殿の下は圧巻の眺めだった。島中を埋め尽くすほど集まっているのは。
「魔族と、人間……」
信じられないものを見たように、カイくんが呟いた。
「に、ににに、人間を、う、動かしたのは、く、クロリスさんです」
ゲルパさんがカイくんに説明する。初めて会うカイくんやラクシアさんがいるから、どもっちゃうみたい。
「い、今までクロリスさんが、道中で、さ、『災害』から救ってきた人たちが、く、くく国相手に蜂起したんです。そ、そそそれと、お祖母様とお祖父様が、知り合いの英雄や著名人たちに、は、働きかけて」
「いや、私が動かせたのはちょこっとよ! 後は全部皆のおかげだし!」
私が道中で救えた人なんて、本当に一握りだ。それよりもレナティリスさんとユーグさんの幅広い人脈の方が大きい。そして、その人たちから、他の知り合いへ、そのまた知り合いへと広がって、王族や権力者そっちのけで駆けつけてくれたのだ。
だから、集まってくれた人たちは兵士じゃない。元々モンスターを狩っていた傭兵や腕自慢の親父、自警団の若者たち。
「お、お祖母様とお祖父様を動かしたのは、クロリスさんです。ぼぼ、僕が動いたのも、フィンさんが動いたのも」
聖国とレナド王国に関しての権力者関係は、フィンさんが弱味やらなんやら握っていた。ゲルパさんが木のネットワークを使ってフィンさんが権力者たちを脅し……もとい、働きかけて集まる民衆に目を瞑ってもらい、移動手段を確保してもらったのだ。
「元々ラクシアを自由にする為に色々と根回ししていたのだけど、役に立って良かったよ」
その時のフィンさんの笑顔が黒かったこと。生き生きしていたね、あれは。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます