第21話 フィンさんと聖女

「あいつって聖女様のこと? 知り合いなの?」

「ガキの頃からの知り合いだな。俺とフィンと聖女ラクシアは、同じ孤児院育ちなんだよ」

「えええ?」


 シグルズはともかく、フィンさんや聖女さんも孤児院育ち?


「僕の出自は複雑でね。母はいわゆる高級娼婦ってやつだった。父は現ハンドブルグ当主。正妻に中々後継ぎが出来なくて、僕を身籠った母が妾の座を手に入れた。ところがその後に正妻が無事、後継ぎを産んでね。用済みの母と僕は、呆気なく捨てられたよ」


 どこか他人事のように、フィンさんが身の上を語る。


「僕に愛情を持てなかった母は、六歳の時に僕を捨てて男と姿をくらました。母に捨てられて途方に暮れていた僕を拾ってくれたのがラクシア、今の聖女なのさ」


 ああ、だからフィンさんには貴族特有の傲慢さや、鼻につく感じが無いのか。


「ところが十九の時に突然、孤児院からハンドブルグ家に引き取られてね。流行り病で、後継ぎの長男が死んでしまったとか。勝手な話さ。しかも僕には魔法の才能もあったものだから、あれよあれよと当主候補」


 あれ? でも確か合流するとき、勇者に同行するのはハンドブルグ家の為だって言っていたよね?

 私とメイちゃんが首を傾げていると、フィンさんが悪戯っぽい笑みを向けた。


「ふふっ、あれは方便だよ。本当は僕と母を捨てた癖に、自分たちの都合で呼び戻したハンドブルグの家なんて糞食らえ。いい建前が出来たから好き勝手してやるさ。あ、でも家名は便利だから使うけれどね」


 前方、聖国の方向に視線を移したフィンさんが、瞳を細めた。


「ラクシアは大切な幼馴染みだ。幸せでいて欲しい。聖女なんかになったばかりに不幸でいるなら、出来る範囲でなんとかしてやりたい」


 私の旅に同行してくれたのって聖女さんのためってこと?

 メイちゃんと目を見合わせた。彼女も目をキラキラさせている。


 イケメンで城の殆どの女の子の憧れで、熱烈なファン倶楽部も出来ているほどのモテ男なのに、誰とも付き合っていなかったのは、聖女さんのことが好きだったからなんだ。いいなあ、純愛! 


 私たちの様子に、フィンさんが苦笑した。


「言っておくけれど、彼女からすればただの孤児院の仲間だよ。僕にとっては違うけどね。綺麗で優しい彼女は孤児院でも皆の憧れで、殆どの男の子が恋していたものさ」


 なるほど。でも、フィンさん。気づいています? 声がいつも以上に優しいですよ。


「あいつが優しいとか殆どの男の子が恋ってお前。盛りすぎだろ」


 御者台から呆れた声が聞こえたけど、それは無視した。

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