第15話 モンスターと魔石

「こういう視界の悪い場所は、モンスターが潜みやすいから気を付けろよ」


 後ろを見ずにシグルズが注意する。シグルズが一番前、真ん中がメイちゃん、殿が私だ。剣や魔法の訓練はしてきたけど、索敵とかモンスターの知識や経験は圧倒的に足りないからシグルズが頼り。少しでも何か掴もうと気を張ってはいるけれど難しい。

 草を掻き分け踏みつけ進んでいるから、大きな音が立つ。自然の動物や猛獣はこれで逃げてくれるのだが、モンスターは違う。あいつらは自然の理から外れた存在なのだ。

 どんなに獰猛で人を襲うような猛獣でも、モンスターとは言わない。人にとって脅威だとしても、彼等は生きるために狩りをしているだけ。自然の理の中にいる存在だ。人間も、魔族でさえも、同じ。親から生まれ、食べて寝て成長し、子を儲け、老いて死ぬ。

 でも、モンスターは違う。モンスターの生態はあまりよく分かっていないけど、見つけ次第殺すか、報告するのが決まり。なぜならモンスターは、近くにいる生き物を無差別に殺す。殺すだけで食べもしない。目に入るもの、知覚できた生物を殺し尽くし、大きく強力になっていくのだ。はっきり言って悪夢みたいな存在だ。見た目も大概が気色悪いし。


「おい、後ろから来ているぞ」


 シグルズの注意からすぐ、後ろにふっと違和感。これが気配ってやつかな。なんて思いながら、直感的に気配の方向に剣を掲げた。

 私の剣に蛇のモンスターの牙が阻まれ、鈍い金属音が響く。キマイラではなく、名前の知らないモンスターだった。私の頭を丸ごとパックリとやれそうな、でかい顎、牙から滴るのは、多分毒だ。こういう時こそ冷静に、よ。

 私は剣を押し込み、口を開けさせてから引く。牙の外れた剣を横に一閃。首を斬った。暴れまわる胴体の側に、遅れて首が落ちる。すうっと、首と胴体が溶けるように消えて、小さな魔石が残った。


「よし、魔石ゲット」


 私は魔石を腰のポーチに仕舞う。魔石はお金になるからだ。

 モンスターは死骸を残さない。代わりに魔石だけを残す。魔石はマナを溜めこむ性質があるため、生活魔法のいい燃料になる。

 モンスターが何処でどうやって生まれているのかは、分かっていない。卵も、子供も確認されていない。雌と雄があるのかも分からない、謎の存在。研究のために生け捕りにしても、何故か溶けて魔石になってしまうんだって。

 段々と山の傾斜がきつくなってきた。木々がまばらになって岩肌が目立ってくる。足場も悪く、シグルズが時々メイちゃんに手を貸すようになった。私は岩を掴む腕と太股に力を入れて体を引き上げる。息が切れ、心拍数が上がる。普通に登るのもしんどいのに、こんなところでキマイラと戦うかもしれないと思うとキツイ。


「……生き物の気配がないな」


 周囲に気を配りながらシグルズがぽつりと漏らした。やっぱり? さっきから鳥の声や動物たちの軽い足音も鳴き声もない。


「まずいな。今回のキマイラはかなり殺して強くなった奴かもしれん」


 うう。あまり有り難くない情報だなぁ。不安が増したじゃない。私は口をへの字に曲げて、また岩をよじ登った。三人とも無口になって、黙々と山を登る。何時間登っただろう。空気が変わった。前方からピリピリと肌を刺すような気配がする。多分キマイラだ。やっぱり今までのモンスターと違う。

 姿はまだ視認出来ない。生い茂る木々や雑草、あちこちで突き出ている岩が視界を遮っていた。


「クロリス」


 足を止めたシグルズが私の名前を呼んだ。頷き、メイちゃんの前に陣取るシグルズの横をすり抜けて、一番前に出た。緊張する。


「気を付けて下さいね、クロリス様」

「まっかしといて!」


 私は自分の不安を吹き飛ばすため、心配そうなメイちゃんに親指を立ててみせた。



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