第12話 メイちゃんのお説教

 道中は、時々モンスターが出たものの、それなりに順調に進んだ。そんなに強いモンスターは出なかったので、これも訓練だとシグルズは傍観。私とメイちゃんとで倒して行くうちに、予定通り夕刻にはバオバフ町に着いた。

 バオバフ町は、大きくも小さくもない程々の町で、地酒が特産品だとか。定期的に王都へ出荷して生計を立てているらしい。暗くなる迄に宿屋で二部屋取り、今日は早めに休んで、明朝に出立予定だった……んだけど。その翌朝。


「二人とも! 何をやったか分かっているのですか!」


 はい。私とシグルズは、怒れるメイちゃんに説教されておりますです。はい。

 メイちゃんがバンッとテーブルを叩く音に、シグルズが盛大に顔をしかめた。


「頼む。大きな音を立てないでくれ。頭に響く……」


 頭を抱え、消え入りそうな声でメイちゃんにシグルズが懇願する。うわあ、こんなに弱弱しいシグルズはじめて見た。


「クロリス様! 他人事みたいな顔をしている場合ですか。同罪ですからね!」


腰に手を当てて仁王立ちになったメイちゃんは、魔王です。敵いません。


「はいっ! ごめんなさい!」


 私は慌てて姿勢を正した。シグルズはメイちゃんの大声に撃沈して、青い顔でテーブルに突っ伏している。うわあん、こんなに怖いメイちゃんはじめて見たよう。


「全く! 昨日は大変だったんですからね!」

「すまん。謝る。謝るから。頼むから回復魔法を……」


 ギロリと睨まれ、シグルズは言いかけた言葉を飲み込む。


「な、何でもない。すまん。反省します。二日酔いくらい我慢します」


弱っ! 今のシグルズ弱っ! 私も同じくだけど。


「そ、れ、で! 何をやったかの答えは?」


 ひいいぃ。メイちゃんの小柄な体が何倍も大きく見える。


「分かりません。覚えていません」


 怒れるメイちゃんを前にして、私とシグルズは小さくなって謝るしかない。

 ええと、何でこうなったんだっけ? 駄目だ。記憶にない。でも思い出さなきゃメイちゃんが怖い。私はなけなしの記憶を捻り出した。

 そう。宿屋兼、酒場で食事をしていて、看板娘のエリィさんにお酒の説明を聞いていたら美味しそうで。ちょっとだけってメイちゃんを説得して一杯飲んだらすごく美味しくて。ふわふわして、気分が良くって、シグルズにも飲め飲めって勧めたような。渋るシグルズの口に無理矢理に酒瓶突っ込んで、高笑いしたところまでは覚えている。

 そしたら急にシグルズが陽気になっちゃって。楽しくって、楽しくって、調子に乗ってさらに飲んだ気がする。そこからの記憶がない。

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