二章

第10話 急な旅立ち

 日々はあっという間に流れる。私が勇者に祭り上げられてから一カ月が過ぎた。剣は何とか様になり、魔法は全て中級までマスターした。回復魔法は無理。あれ難しいのよ。

 で。ド素人からその辺の中級冒険者程度にはなった所で、旅に出ろとの王命が出た。

 いや、急すぎない? まあ、いつまでも城でぬくぬくやっているわけにはいかないって、分かっていたから覚悟はしていたけど。いや、訂正。あんましぬくぬくしてなかった気もする。

 とにかく、なんか仰々しくパレードなんかされちゃって、大々的に送り出された。もう引きつった笑いを浮かべるしかなかったね。ほんと。

 とまあ、そんな感じで国を出て、今に至るわけだけれど。

 ふむ、と独り言ちた私はくるりと周りを見渡す。

 私は白銀の胸当てに籠手と膝まで覆うブーツ、腰には勇者の剣という出で立ちだ。荷物は背負ったリュックと腰に吊るした剣とポーチのみ。荷物、装備とも必要最低限の軽装だ。

 そしてご存知、竜殺しのシグルズ。彼も旅の軽装で、黒の部分鎧に背中にごつい大剣、肩に皮袋を担いでいる。さすがに様になっているし、 なんか認めたくないけど、格好いい。

 そして、なんとメイちゃん! 彼女も皮の胸当てに弓矢、リュックとポーチ。皮のショートブーツと、短めのスカートにスパッツが可愛い。

 ここまでもいいとしよう。しかし。しかしだよ。

 これだけ? 他に誰かついてこないの? これだけのメンバーで魔王を倒してこいって、馬鹿なの? 馬鹿じゃないの? 向こうは城で戦力揃えて待ち構えているんじゃないの? それなのにこっちはたった三人! しかも、まともに戦えるの、シグルズだけじゃん。

 駄目だ。突っ込み処が満載すぎて、くらくらする。


「せめてフィンさんとフーリエさんもメンバーに加えてほしかった」


 がっくりと肩を落として本音を言う私に、シグルズがうんざりと返した。


「あいつらは国のトップの魔法使いだ。そう簡単に手離さねぇよ」

「そのわりに勇者はあっさり手離されましたけど? それに竜殺しの英雄さんも!」

「お前は期待されてねぇのさ。宮仕えじゃない俺は煙たがられていたしな。体のいい厄介払いだ」


 まじか。いや、薄々そうなんじゃないかと思っていたけどね。取り敢えず、装備だけは交渉して、良いものをふんだくっておいて良かった。追い剥ぎにあうと困るから、見た目の華美なものは避けたけど。


「はああ。先行き不安。それはまあ仕方ないとして、メイちゃん、本当に良かったの?」

「はい。微々たる力ですが、クロリス様のお役に立ちたいのです」


 私が訓練している間、メイちゃんはずっと回復魔法を磨いていた。お陰で軽い怪我なら治せるようになったし、薬学と医学も勉強してくれたので、お医者さんのような存在だ。


「足手まといになってしまうかもしれないことだけが、気掛かりですが」


 申し訳なさそうに目を伏せるメイちゃんに、私は首を横に振る。


「そんなことないよ。回復魔法は貴重だし! 何よりメイちゃんがついてきてくれて嬉しい」


 本心から言う。メイちゃんが側に居てくれてどんなに心強いことか。シグルズと二人きりなんて拷問だし。


「確かに回復魔法の使い手は貴重だ。例え戦力として役に立たなくとも、軽傷しか治せない回復魔法役でも、な」

「うう」


 シグルズの言葉に落ち込むメイちゃん。


「メイちゃん、大丈夫。こいつこれでも褒めているのよ。シグルズ、あんたもうちょっと言葉に気を付けなさいよね」


 シグルズは横を向いて知らないふりだ。全くもう!


「さて。これからの行先だけど。魔王の前に聖女さんに会え、だったわね」


 旅立つ前に受けた説明では、勇者は魔王に挑む前に、聖女に会わなければならないらしい。メイちゃんが腰のポーチから、畳んだ地図を取り出して広げた。


「ああ、はい、ええと、ですね。まず、ここが現在地のレナド王国王都の東門前です。この街道筋を行くとバオバフ町があって、その少し先に地竜のダンジョンがあります」

「へー。地竜って見たことないけど、竜なのよね」


 花屋の娘でしかない私は王都の外へ出たことがないから、地竜どころかモンスターだって話に聞いているだけ。


「地竜は竜の中でも小型で、大して強くはない。割とどこにでも棲息していて、ダンジョンの奥に巣を作ることが多いから地竜のダンジョンはあちこちにある。黒竜は滅多にお目にかかれないけどな」


 地竜を知らない私にシグルズが説明してくれた。

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