第3話 竜殺しの英雄
「ほえー。王宮って広いのね」
メイちゃんに案内してもらいながら、私は感嘆の声を出した。
そりゃあ、王宮なんだから大きいって思ってたよ。でもね、私みたいな貧乏人の予想以上だったんだもの。あれよ。一人でうろついたら余裕で迷子になるね、きっと。
今居るのは二階の北の宮。王宮は中宮と東西南北の宮、後宮に別れているらしい。廊下一つ、階段一つとってもデカイ、広い。おまけに幾つ部屋があるのやら。
一階に中庭があると聞いて、連れて行ってもらった。中庭には花々が蕾を付け、煉瓦の道と、幾つかの広場、優雅な白いベンチが置かれている。
「綺麗。庭師さん、いい仕事しているね」
中庭を歩きながら、つい癖で葉っぱや茎の色ツヤを見てしまう。うん、風通しもいいし、肥料も足りている。草も綺麗に抜いてある。土だって申し分ない。まだ夜明けだから花は蕾だけれど、日光に当たれば開花するだろう。夜咲く花もあるけど、王宮に植えられた花はどれも日中咲く品種ばかりだ。ああ、癒される。うん、これから暇があったらここに来よう。
メイちゃんと中庭を満喫していると、中庭に面した廊下を歩いてくる男が見えた。二十歳そこそこの若い男だ。やや細身だが精悍な体つき、黒に近い茶色の髪に切れ長の青い目。顔はまあ、どちらかといえばいい方。
男は木剣を肩に担ぎ、簡素なシャツを汗に濡らしていた。こちらに向かって歩いてくる。すれ違う寸前で立ち止まり、無遠慮に私をじろじろと見た。何なのよ。
「何か?」
「そいつがあるってことは、お前が勇者か」
低くよく通る声だった。男の指は、私の腰の剣を差している。
「不本意ながら、そうみたいよ」
「お前みたいな小娘が、か?」
男の元から鋭い目が細くなり、剣呑な光が灯る。蛇に睨まれた蛙みたいに、きゅっと心臓が縮んだ。だけど。私だって好きで勇者になったわけじゃない。なのに、どうしてそんな目で見られないといけないのよ。
「そうよ」
私は顎を上げて男を睨み返した。男はしばらく私を見ていたけど、やがて踵を返して行ってしまった。
「何よ、あの男!」
「あの方は、竜殺しの英雄シグルズ様です」
「竜殺し?」
ええっ、竜? 竜ってあの、強くてデカくて、空を飛んで火を吐くっていう、あの? 竜って人間が倒せるものなんだ?
一日が始まったばかりの王宮で、いきなり私は英雄とやらに絡まれたらしかった。
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