8.想い出は美しい


スカイ・パイレーツ。

それがオイラの名前。

オイラは、シンバ・サードニックスと名乗っていた。

その頃、オイラはサードニックスという無敵を誇る空賊の船に乗っていた。

その船のキャプテン、ガムパス・サードニックスは、今も健在だが、目も見えず、寝たきりになりながらも、全ての空賊を統一させる、未だ無敵を誇る男。

オイラは、その無敵を誇るガムパスを、オヤジと呼んでいた。

それは、今も、そう呼んでいるが、オイラは、もうサードニックスではなくなった。

オイラが空賊として、戦っていた日々は、もう1年前になる――。

この1年で、世界が驚愕するニュースは、たった1つ。

あのシャーク・アレキサンドライトが、逃走した事だ。

ジェイドで死刑宣告された後、死刑日までの間、厳重な牢獄へ入る為に、護送中だったらしい。

シャークは、姿を消した。

サードニックスを、嘗て脅かす程の空賊、最強のシャーク・アレキサンドライト。

その後、指名手配も虚しく、目撃者の数は、世界中で溢れているのに、今も尚、捕まっていない。そのせいで、シャークの賞金首は、跳ね上がり、今では、オヤジより、その首は高くなっている。

噂では盗賊の頭になっているだの、山賊になっただの、海賊になっただの、空から離れたような話ばかり聞くが、奴は必ず空に戻るだろう。

ジェイド王も、そう考えているのか、空軍を強化訓練し始めたらしい。

勿論、陸も海も、空に負けられないと、日々、努力しているみたいだ。

軍がチカラをつけたジェイドエリアは、割りと平和だと言う。

次のジェイドの王には、レオン王子がなる予定。

レオンは、エクントの祭りに今年も来るだろうか。

オイラとレオンは、ジェイドの城下町で偶然、再開し、友達になった。

只、レオンとオイラが双子の兄弟であると言う事は、レオンは知らないし、多分、オイラと友達になった事は、王には秘密にしているだろうから、ジェイド王も知らない事だろう。

オイラも言うつもりはない。

ジェイドの王族の地位には、全く興味ないし、オイラは、ずっと空で生きて行きたいから――。

空で生きる。

オイラは空で生きる事を選んだ。

空が好きだから。

「スカイ、来てたの?」

ここはエクント。ホテルのロビー、劇場へ続く長いローカに飾られてある写真を見ていたら、ララに声をかけられた。

ラティアラ・ラピスラズリ。愛称ララ。

彼女は、伝説の飛行機乗りと呼ばれるオグル・ラピスラズリの孫娘。

今は、ここの看板歌手だ。

「来るなら、声かけてよ」

「あぁ、いや、ルイに呼び出されて来ただけ」

「ルイに?」

「うん。ウィッシュスターの整備の予約してたから、行ったら、カインが、ルイが、オイラが来たら、劇場に来るように伝えてって言ったって言うからさ」

ウィッシュスターは、オイラの愛用機。

今日は、ウィッシュスターの整備の為、前々から予約していた。

飛行機の各機能が正常に作動しているか、半年に一度は、飛行機乗り達は、愛用機を検査する。

カインは、飛行機の整備士になった。

理由は、リーファス・サファイアが、飛行機から降りたからだ。

リーファスが飛行機の整備士になった途端、カインも、飛行機乗りという夢を捨て、整備士になった。

どうやら、カインは、飛行機乗りに憧れていたと言う訳ではなく、リーファスに憧れているのだろう。

リーファスが、何故、飛行機を降りたのか、それは、リンシー・ラチェットと結婚したからだ。

嘗て、歌姫とまで言われた、舞台歌手のリンシー・ラチェット。

今は、ララや、歌手志望の子達の先生として、そして、ホテルのバーなどで、ピアノを弾いたりしながら、働いている。

リーファスと、リンシーの間に、子供ができ、結婚を決めたら、ド派手な式を挙げ、2人で飛行機に乗り込んで、ハネムーンに旅立ったと思ったら、帰って来たリーファスは、飛行機乗りを辞めると言い出した。

シャークが逃走した事で、リーファスは、賊狩りをしていた事もあり、賊連中には恨みを持たれているだろうと、特にシャークは、手段を選ばない男だからと、リンシーや我が子を守る為にも、大人しくしているのがいいと言う判断らしい。

「ルイ、呼んでこようか?」

「え? あぁ、いいよ、待ってる。どうせ、ウィッシュスターの検査が終わるの、明日になるし、今日はエクントでのんびりしようと思ってるから。ていうか、折角だから、今夜の舞台、見ようと思ってたのに、チケット売られてなくてさ」

「もう完売なんだよ」

「もう!? まだ午前中なのに? そんな人気なんだなぁ」

「ここでルイを待ってる間、何してたの?」

「写真見てた」

劇場に続くローカに飾られてある写真は、ここの舞台で活躍していた俳優や女優、歌手、そして、伝説の飛行機乗りオグル・ラピスラズリ――。

既に他界しているが、オグルの伝説は、今も語り継がれている。

この飛行気乗りのエリアに、空賊が攻め入った時も、あの世からオグルが蘇り、MONSTERという愛用機に乗って、空賊共を蹴散らしたとか。

まぁ、そういう事にしておいてもいいかなと、オイラは、その話に否定はしない。

実際、その時のオイラはオグルが乗り移っていたのかもしれないと思う時もある。

いや、あの時、モンスターにオグルが乗り移っていたのかもしれない。

今となっては、わからない。

モンスターの声が、あれ以来、オイラには聴こえない。

空賊の船に突っ込んだくらいじゃあ、ビクともしない筈のボディなのに、全くエンジンがかからなくなった。

リーファスが、どんなに整備しても、新しい機類、そして、新しいエンジンに取り替えても、全く動こうとしない。

もしかしたら、モンスターは、オグルに会いに、あの世に旅立ったのかもしれないとも思う。

リーファスは、いつか動かしてやると、意気込んでいるので、モンスターの声が聴こえなくなった事は、言っていない。

今は、只、休んでいるだけかもしれないし、そうじゃなくても、何れ、動く事を、オイラも願っているからだ。

「なぁ、ララ」

「ん?」

「ララのじぃちゃんが生きてた頃、今と違った?」

「なにが?」

「時代っていうか、何て言うか・・・・・・ほら、じいちゃんの話とか聞いてたんだろ? 伝説って呼ばれるくらいの人だ、若い頃、どんなだったのかなって――」

「聞いてたけど、おじいちゃん、自分がカッコイイ事しか言わないから」

クスクス笑って、そう答えるララ。だが、スカイは写真を見ながら、

「実際カッコ良かったんだよ」

そう答えた。

「そうね、確実に時代は、昔より、今の方が良くなって来てるとは思うの。イロイロ便利にもなって来てるし、平和にもなってきて、治安もいい町も増えて、国々の王達も、民の事を考えてくれる王が増えたし。孤児の数も、年々、減ってきてるって話しもあるし。でも、世の中が幸せになればなる程、人は、ラクになってくから――」

そこまで言うと、ララは黙り込み、考え出したから、言葉が思いつかないんだろうなと、スカイは、黙ったまま、ララの話の続きを待ちながら、写真を見る。

若い頃のオグル・ラピスラズリの写真は、モノクロで、ピントが合っていないようなモノもあり、ノスタルジックだ。

まだ飛行機乗りになる前だろう、戦争兵士としての格好をして、銃を片手に、タバコを咥えて、笑っているオグルの周りに、同じ迷彩柄の軍事服を着た若者達が、皆、大口開けて笑っていて、それは、戦争で勝利した時の一枚なのだろうか。

だが、勝利した裏では、敗北した者がいて、こうして笑えない者達が同じ数だけ、存在したんだろうなと、思っていると、その写真に写っている若者に・・・・・・

「オヤジ・・・・・・?」

思わず、口の中で呟いた。

ガムパス・サードニックスだろうか、面影があるが、そうとは言い切れない、なんせ、シュッとした体型で、若くて、やたら男前の面で、カッコよく写っている。

今のガムパスとは全く違うが、面影がない訳でもない。もしかしたらと、シンバは、写真に近付いて、まじまじと見つめていると、

「おじいちゃんみたいな男がイッパイいた時代なのよ。でも、その時その時の時代があると思うの。なんて言ったらいいのかな、おじいちゃん、とってもカッコイイと思うけど、でも、今の時代にいたら、只の変わり者だと思う」

ララが、写真を見ながら、そう言うから、シンバは、ララを見ると、ララも、シンバを見て、ニッコリ笑い、

「私達には、私達の時代があるでしょ」

そう言うので、確かにと、頷く。

「おじいちゃんからしたら、昔の方が良かったとか、昔は今よりいい時代だったとか、思うかもだけど、それって多分、自分が一番カッコよかった時代を良かったって言ってるだけだと思うの」

言いながら、くすくす笑うララ。

「年老いて・・・・・・動けなくなって・・・・・・時代について行けなくなったら、幾ら便利で平和な世の中になってても、理解できない事には難しいから、昔の方が便利で、人に優しい時代だったって思うんだと思う・・・・・・」

「あぁ、そうかもな」

スカイは、頷き、

「オヤジの話し、もっとちゃんと聞いてやろう」

そう言った。

「オヤジもさ、若い頃の武勇伝ばっか話すんだ。何度も何度も。オイラ、もう、その話し、覚えちまったよって、面倒になるんだけど、何度だって聞いてやるべきだな」

「・・・・・・ガムパスさん、元気?」

「あぁ、寝たきりだけどね。元気は元気。いつも、行くと、ホント同じ話しばっかして来るよ。そういえば、オヤジも、ララを気にしてた。ここは飛行機乗りのエリアだから、オヤジの船、サードニックスが来る訳にはいかないから、ララの舞台を見せてあげられないのは、残念だ」

その時――

「スカイ!」

と、ルイが駆けて来た。

「ごめんね、来てもらって。待った? 私、今さっき、カインから、スカイが来たって聞いて、急いで来たんだけど」

「あぁ、いや、大丈夫、オイラもさっき来たとこ」

「あのね、これ、舞台のチケット」

ルイは、今夜の舞台チケットを差し出した。スカイは、ルイを見て、その差し出されたチケットを受け取ると、

「実は、今月の舞台で、私、主役なんだ」

ルイは、モジモジしながら、そう言うので、

「そうなのか? スゲェじゃん! へー! そりゃ見なきゃだな」

と、スカイは言いながら、ララを見て、

「ララも芝居に出るのか?」

そう訪ねた。ララは、

「それには出ないけど・・・・・・シンバ、その舞台、見なくていいんじゃない?」

などと言い出した。

「は? なんでよ? 私が主役なのが気に入らないの!?」

そりゃそうだ、ルイが、怒り出す。

「違う違う、ルイが主役なのは別にいいんだけど、ルイって、先月の舞台でも主役だったじゃない? どうして今月のだけ、スカイを呼ぶの?」

「先月も呼びたかったけど、スカイって、いつ来るか、わからないから。整備士のカインって、アンタの友達でしょ? 彼に、聞いたの、今月はウィッシュスターの検査に、スカイが来るって。だから、来たら、劇場の方に来てほしいって、私が呼んでたって伝えてって。チケット、渡したかったから」

そうだよねと、ララは頷いて、黙り込んだから、スカイは、クエスチョン顔で、

「なに? なんかあんの? オイラが今夜の芝居、見たら駄目な事?」

と、聞いてみる。ララは、ううんと首を振り、

「見たら駄目じゃないんだけど、今月の舞台のお芝居は・・・・・・聖戦をやるの」

と――。

「聖戦? あぁ、確か、リーファスが言ってたな、ここ空の大陸で、ジェイドの騎士と、サードニックスが戦ったんだっけ?」

どんな話しだったっけかと、シンバは、思い出そうとしながら、そう言うと、

「ジェイドの騎士と、革命家と、サードニックスが戦った時の話よ。主役は、ジェイドの騎士を指揮したジェイドのお姫様。ルイの役ね。わかるでしょう? サードニックスが悪役なの」

と、ララは、そう言って、少し困った表情をするから、

「そんな事、気にすんなよ」

と、スカイは笑う。

「そりゃそうだろ、サードニックスは賊なんだから、悪役じゃなきゃおかしい。それに、只の芝居だ」

「でも、ガムパスさんが、酷くやられるシーンもあるのよ」

「だから只の芝居だって」

「だけど――」

「ララ、オイラは大丈夫だ。そんな事で怒ったり、悲しんだりしない。聖戦の話は、リーファスから、ちょっと聞いただけだし、芝居見て、知るいい機会だし、オヤジにも、芝居の話を聞かせてやれるし」

本当に、そう思っているのだが、ララは、困った表情のままだから、よっぽどサードニックスが悪者にされているんだろうなと思っていると、

「ごめん・・・・・・私、あんまり深く考えてなくて、自分が主役なのが嬉しくて、スカイにチケット渡しちゃった・・・・・・」

ルイが、そう言って、落ち込み出すから、冗談だろ、やめてくれよと、

「いや、ホントに! ホントに大丈夫だから! ルイが主役なのは、オイラも楽しみだし、しかも、お姫様役? そりゃ、みんなに見てもらいたいよな、わかるよ、だから、気にするなよ、オイラは、嬉しいよ、チケット。ありがとな?」

と、俯く女2人を、慰めるように言うスカイ。

参ったな、この状況と思ってるとこへ、

「あ、いたいた! シンバー!!」

と、オイルで汚れた真っ黒な顔と、真っ黒に汚れた作業服でやって来たのはカイン。懐かしい名前で呼ぶなよと、言おうとしたが、ふと、ルイの足元に、シンバがいた。

きっと母親と一緒にいたが、ルイと一緒に付いて来てしまったのだろう。

ハイハイしながら・・・・・・。

シンバは、リーファスと、リンシーの息子。

シンバなどと名付けられて、とても呼び難いったらありゃしないと、スカイは、シンバを見下ろす。

カインは、ヒョイっと、シンバを抱き上げ、

「あーぁ、もう、僕みたいに、こんなに汚れて。パパとママが探してたよ」

と、シンバに言う。そして、オイラを見て、ララとルイを見て、

「うわ、女の子2人、泣かしたの? 最低だな」

そう言うから、違うよ!と、スカイは首を振った。

「お前さ、とことんオイラをクズだと思ってるだろ」

「うん、会った時からね」

「会った時から!?」

「え、気付いてなかった?」

「気付いてたけど!! 言う!? 普通!! そういう事!! 心に仕舞っとかない!?」

「あ、それチケット? ルイからもらったの? 僕も今夜観ようと思ってて。席は遠く離れてるトコだよね?」

「遠く離れて座りたいんだ!? オイラと!?」

「同じテーブルで座りたいの?」

「座りたくねぇよ!!」

「でしょ? 僕は優しいから、スカイの気持ちを察してあげてるんだよ」

「嘘吐け!!」

――ホントにムカつく奴なんだが、相変わらず、コイツは!!

カインが来た事で、ララと、昔話のような、子供の頃の話が始まり、ルイも混ざって、劇場の人や、ホテルの人達、エクントを出入りしている人達の日常の話が始まる。シンバは、3人の話を聴きながら、また写真を見つめる――。

「そういえば、初めて風祭に来た時――」

カインが、そう言って、ララが、

「初めて?」

と、聞き返す。

「アレキサンドライトが来た時の風祭の時の事だよ。あの時、エクントに着いて、直ぐだったかな、スカイが、どっか走って行っちゃって、それをララが追い駆けて行ったでしょ?」

「そうだっけ?」

「そうそう。で、僕は、リーフおじさんと一緒にいたんだけど、その時に、会った人の事だと思うんだ、ブライトって――」

「じゃぁ、私の知らない人よ」

何の話しだ?と、カインを見ると、

「僕達と同年齢くらいの少年がいてね、息子だって言ってたと思う。なんか変な子でさ、デブだったかなぁ、いや、女の子だったような、いや、息子だって言ってたから、男の子だ。なんていうか、兎に角、変わった子だった。ほら、絵本のフォックステイルの真似してるんだと思ったけど――」

と、意味のわからない事を言っているから、

「何の話しだ?」

と、聞くと、ララが、

「リーフおじさんの飛行機の名前、ブライトって言うでしょ? その名前って、友達の名前なんだって。で、カインの話しだと、その友達とね、スカイとカインが初めて風祭に来た時に、リーフおじさんは、再会したらしいの。でも、その後、行方がわからなくて、連絡先も聞いてないから、もしかしたら、あの時、亡くなった人の中にいるのかもしれないって――」

と、説明し、

「でも亡くなった人は、全員、身元確認できてるんでしょう? なら、生きてるんじゃない?」

と、ルイが、そう言って、そうだよねと、ララと、カインは頷く。

話はまだまだ続きそうで、スカイには関係なさそうな話しと言うのもあり、

「オイラ、もう行くよ」

そう言った。

「でもウィッシュスターはまだ検査中だよ?」

カインが、そう言うので、

「他の飛行機、借りてくわ。夜には戻って、芝居、見に来るよ」

と、じゃぁ、またなと、手をあげた。

「どこに行くの?」

そう聞いたルイに、

「いやぁ、懐かしい話しで盛り上がる、お前等見てたら、楽しそうだなって思って、オイラも会いたくなったから」

と、

「サードニックスに――」

そう言った。

「いってらっしゃい」

と、笑顔で、送り出すララに、

「いってきます」

と、笑顔で返した――。

というか、実は、今日は既にサードニックスに行っていて、セルトに、毎日毎日来るなと怒られたばかりだ。

セルトは、あの日以来、オイラのよく知っているセルトに戻った。

未だ、オイラは、あの時のセルトの行動の意味がわかっていない。

なんで? どうして? そんな言葉ばかり繰り返し浮かぶ。

でも、あの時、オイラは、セルトを一瞬でも殺そうと覚悟を決めていた。

セルトへの憧れも、理想も、全部、あの時は確かに捨てていた。

なのに、やっぱり、どうしたって、オイラは、セルトが大好きで、離れたくなくて、懐かしい話をできるのも、セルトだけだし、だから、あの時の事は、今はまだ難しいけど、いつか、笑いながら話せるようになれたらと思う。

サードニックスのポートレートを飾ってくれるような場所はないだろうけど、オイラの中には、サードニックスのみんなのポートレートが、飾られていて、目を閉じると、いつだって、みんなの姿が、モノクロで映し出される。

そして、そこにいるオイラの隣には、いつだって、セルトがいてくれたから――。

「まぶしッ!」

ホテルを出て、光り輝く太陽を見上げ、呟く。

青天白日――。

「スカイ」

「おー、リーファス。久し振り!」

「あぁ、お前、シンバ見なかったか?」

「あぁ、カインが抱っこしてたから、ちゃんと連れてくだろ」

「そうか、良かった」

「なぁ、飛行機、一機、借りたいんだけど」

「整備工場の予備のでいいなら。もしくは、フォータルタウンまで行けば、オグルの駐機場に、よりどりみどりの飛行機達があるぞ? 駐機場の鍵渡そうか?」

「いや、夜には、また戻って来なきゃだから、直ぐに借りたいんだ」

「そうか。夜に? ウィッシュスターは明日までかかるぞ?」

「劇場のチケットもらったから」

「あぁ、ララが歌うのか?」

「ララじゃなくて、ルイが芝居のヒロインだって言うから」

「お前、ララとどうなってんだ? ていうか、お前、ルイなのか?」

「何が?」

「何がって!!」

「なんだよ、またわけわかんねぇ事で、眉間に皺寄せんなよ」

「ていうか、お前、なんで国の飛行機乗りとして、登録しねぇんだよ!? いつまで空の旅人してんだ? ジェイドで登録して、スピード競って、賞金もらえ!! 地に足を付けろ!! いつまでもフラフラ遊んでんじゃない!!」

「オイラ、別にスピード競うとか、興味ねぇって」

「ウィッシュスターは、スピードを出す為の飛行機だ! それにな、飛行機乗りとして登録しておけば、飛行機乗りの手当として、国から資金もらえるし、風祭で、優勝すれば賞金が出るし、負けたとしても、参加賞が出る! お前、今、賞金稼ぎみたいな事やってんだって?」

「あぁ、ルール守らねぇで、地上で悪さする賊がいるからさぁ」

「そんな事は今直ぐやめろ!」

「リーファスだってやってたじゃん」

「俺の二の舞いになりたくなければやめろ!」

「何言ってんだよ」

「ジェイドが嫌なら、他の国でアドレスを持って、飛行機乗りとして、登録すればいい! な? そうしろ! 俺が、ちゃんと飛行機乗りとして育ててやるから!」

「別にジェイドが嫌とかねぇけど、オイラは、飛行機乗りとして、スピード競ったりはしたくねぇんだよ! リーファスは、オイラじゃなくて、シンバを育ててればいいだろ、そんでシンバが大きくなったら、飛行機乗りにさせりゃぁいいじゃん」

「シンバの前に、お前をなんとかしないとだろ!!」

「もうイッパイしてくれたよ、感謝してるって! だから、もう何もしてくれなくていい。オイラは、ウィッシュスターと、世界を、空を見て、只、飛んでいたいだけ。悪いけど、ホント、それだけだから。オイラは、空が好きなだけだから」

言いながら、リーファスの小言から逃げるように走り出した――。

明日はどうなるか、わからないが、今、この時が、またいつか、懐かしいと思い、あの時は、良かったなんて、話し合える仲間が、その時にいて――

このウザいリーファスの事を、話せる仲間がいるから、だから――

オイラは、将来、どうなっているか、わからないけど、でも、いつか、セルトと、ガムパスの話ができたらいいなぁと思っている。

ガムパスの若い頃の話を、語り継ぐ為にも、何度も自分の武勇伝を話すガムパスに付き合うのも、悪くないと、スカイは、青空を見上げた――・・・・・・

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SkyPirates ソメイヨシノ @my_story_collection

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