第6話 口と耳
『そこ、なにやってんだ、バカヤロー!』
怖くて身がすくみそうになった。四十年前、引っ越してきたら、目の前に中学校があった。怒鳴っていたのは教師で、体育祭に向けて、猛練習が行われていたのだ。
あれから四十年経った今では、「もう少し間隔をとってください、よろしく」という猫なで声に変わっている。
友人が食事中にお婿さんにむかって、「味噌汁のお代わりは?」と訊いたら、「大丈夫です」という答えが返ってきたという。いるのかいらないのか、はっきりしてくれと心の中でぼやいたということだった。「充分いただきました」とか、「ありがとうございます、でも結構です」とか、丁寧な断り方を知らないのかもしれない。
高齢者施設で働く孫娘から、「お願いします」は、きつい言い方で、「お願いできますか」と頼むほうがいいよと言われた。
ったく! あいまいで、めんどくさい世の中になったもんだと、膝の上の犬を撫でる。こいつは、目と耳と鼻と第六感をフルに使って、家族の空気を読むことがうまい。無駄吠えしない、口利かない。アンタはほんとに偉い。
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