第14話 少年編13

泳ぎは得意な方だが思ったより遠く感じる。


ようやくボートまでたどり着いた時には、付近で遊泳していた家族連れに隆司は助けだされて、半べそをかきながら春子に抱き抱えられていた。


隆一は息をきらしながら、


「どうも助けて頂いてありがとうございます。」


とまずはその家族連れにお礼を言う。


そして春子と隆司のそばに近寄り、立て直してもらったボートにまずは春子と隆司を乗せて、その後自分も、乗り込み、


「とにかく岸まで戻ろうか。」


と、ボートを漕ぎ出す。


隆一はオールを漕ぎながら時折、2人の様子を気にかけるが、先程の事故のショックを拭いきれないのか、表情は暗い。


「大丈夫か?」


と春子に声をかける。


春子はかたい表情で、


「うん。私は大丈夫だけど…。」


「隆司が…。」


と隆司の頭を撫でながら、さらに表情を曇らせる。


ボートは追い風の勢いもあってか、思ったよりもはやく岸に到着する。


隆一は自分が先に降りて、波打ち際にボートを寄せ、春子から隆一を預かる。


その後春子もボートから降りて、隆司を抱えながら、2人でボートを砂浜まで引き上げる。


そんな一連の動作の間、隆司は不安そうな顔で隆一にしがみついていたけれど、


「とうちゃん降りる。」


と言って砂浜の上に降りたがる。


そして、隆司をそっと降ろすと、


「とうちゃんボートこわいねぇ。ボートこわいねぇ。」


と何度も繰り返して隆一に訴える。


そこで隆一はふと気づく。


我が子は沖でひっくり返ったボートに恐怖心を抱いていたのだと。


それなのにその怖いボートに乗って岸まで帰って来たのだから、さぞ怖かっただろう。


隆一はその恐怖の原因のボートは早々にしまって、隆司の機嫌を取り戻すためビーチボールで遊ぶ。



すると隆司はすっかり先の事故の事は忘れてはしゃいでいる。


さすが子供は立ち直りがはやいなぁと思いながら、昨日からの疲れのせいか、頭がクラクラして、ビーチボールを打ち返そうとした瞬間、バランスを崩してひっくりコケる。


コケて寝転んだままの視線の先には、指差して心の底から笑っている家族がいる。


理不尽だと思いながらも隆一は、愛する家族に微笑み返す。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る