第12話 少年編11

しかし本当に隆司が言うように海が綺麗だ。


束の間の家族とのひととき、心が癒やされる。


レジャーシートの上で横になっていると、その安らぎの後に眠気が襲ってくる。


が、そこは3歳の元気な盛りの愛息子が許してくれる筈もなく、


「とうちゃん、あっそぼっ!」


と隆一の手をちっちゃな手で引っ張る。


その無垢な息子の懇願に答えないわけにはいかない。


「よーしっ!とうちゃんと海入ろっか?」


と疲れた体に鞭打つ。


隆司は


「うみ!うみ!なに?」


と嬉しそうにはしゃいでいる。


遊泳の準備の為、隆一は家から持ってきたゴムボートや浮き輪をカバンから取り出して、


「隆司、とうちゃんとお船シュポシュポしよっか?」


と簡易の空気入れを踏んで見せる。


先にある程度まで空気を入れる。


隆司は徐々に膨らみボートの形になっていくのをニコニコしながら不思議そうに見ている。


「隆司もシュポシュポする?」


と聞くと、


「チュポチュポする!」


と嬉しそうに隆一の海パンの裾をつかんで答える。


隆一はもう一度空気を入れるジェスチャーを隆司に見せて、自分は空気が入らない時の補助の為、我が子の後ろにまわる。


隆司は一生懸命にポンプを踏んでいるのだが、やはり、力不足で思うようにボートは膨らまない。


隆一はこっそりとポンプの端の方を踏んで、我が子の手助けをする。


ボートは勢いよく膨らんで、ちょうどいい形になる。


「お船できたねー。」


と隆司の顔を見ると満面の笑みで、


「お船でけた!お船でけた!」


とボートの縁を叩いて喜ぶ。


あとは、浮き輪に空気を入れて準備OKなのだけど、その浮き輪1個2個と膨らませながら、途中で息切れして頭がクラクラする。


この炎天下と寝不足のせいで酸欠状態なのだ。


顔を真っ赤にしながら、ようやく浮き輪に空気を入れ終わると、どこぞで見てたのかと思うようなタイミングで、着替えを済ませた春子が帰ってきて、


「顔真っ赤やけど大丈夫?」


と隆一の顔を覗き込む。


隆一は無意識につい、見慣れた我が妻の胸元に目線がいってしまう。


白のビキニがセクシーだ!


そんな事を考えてる場合じゃない。


余計に頭がクラクラする。


夏のビーチに映える白のビキニが、普段見慣れている妻をよそ行きの格好にアレンジしてくれて、妙に艶かしく刺激的に見える。


しかも、結婚前と全く変わらない抜群のプロポーションで、隆司を産んでからもそれは変わらない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る