第9話 少年編8
「こんにちはー。あのー、お取り込み中申し訳ありません。」
「少し聞こえてしまったのですがー。」
「もしかして、レジャーシートとか余ってます?」
その大家族の母親は少し恥ずかしそうな表情で、
「あっ!こんにちは~。そうなんですよー、こんなに要らないでしょうー。」
と言って旦那の方へ向き直り、にらみつける。
春子は愛想笑いと苦笑いをおりまぜながら、
「もしよろしければ、その余っているレジャーシートを譲って頂けると有り難いのですが?」
「うちはたくさん持ってくるどころか、うっかり忘れてきちゃいまして…。どうしようか困っていたところなんですよー。」
と今度は困った顔をつくる。
まあ、実際困っているのだが…。
すると母親は、
「いいですよ。こんなもので良かったら使って下さい。パラソルも持って行きますか?」
とこころよく言ってくれた。
「いいえ、もうシートだけで充分です。本当に助かります。ありがとうございます。」
春子もさすがにただで譲って貰うわけにはいかないと思い、とか言って金銭で払うのも失礼なので、クーラーボックスの中に入っている冷えたジュース類とリュックサックに入っているお菓子を、
「こんな物で申し訳ありませんが、よろしかったら子供さんにでもどうぞ。」
と母親に差し出した。
母親は、
「そんな気を使わないでください、困った時はお互い様ですからー。」
と一旦は断ろうとするが、春子が子供に直接お菓子の方を、
「これどうぞ」
と渡して、
「ありがとう。」
と子供が受け取ってしまったため母親も、
「もうー、あんたは!」
「どうもすみません。ありがとうございます。」
と言ってジュースの入った袋を渋々受けとる。
その後、お互いに深々と頭を下げ、先に大家族の方が浜辺に向かって歩きだした。
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