カンタンテ

会議に次ぐ会議。王宮は常に慌ただしい毎日だった。

そのため、メグことデガータを怪しむものは居なかった。

皆それどころではないのである。

会議室前の廊下で、花瓶に水をやり、枯れた花を取り除きながらメグことデガータは普段と同じように探知能力を使い、聞き耳を立てた。

椅子を引く低い音の後に、全員が着席する際の衣服がこすれる音がメグの耳に届く。

「では、今日もよろしく頼む。」

ミカエルが言う。

部屋に陸軍と海軍元帥の姿は無い。

「聞いてるとは思うが、両軍の元帥たちは高熱を出して倒れてしまい、急遽自宅で療養する運びとなった。」

ミカエルのこの言葉を聞き、達成感で満たされるメグ。

遅効性の毒は実際に利き目が出るかどうか、毒を盛った本人にはわかりにくいのだ。

「高齢かつ多忙だったため、仕方ないところだ。両軍の中将が前線から王宮に向け帰路についたところである。さて、折り入って話があるそうだな?」

「そうであります。」

と外務大臣。

「さしでがましいようですが、頃合いかと思いましてね。」

もったいぶって話す外務大臣。

「何の話だ?」

いぶかしむミカエル王。

「魔族との和平交渉か、停戦協定を結ばれてはいかがでしょうか?」

外務大臣が言うと会議室はどよめいた。

「続けたまえ。」

しかし、ミカエル王の声に動揺はない。

「分析の結果、このまま魔族との全面戦争になった場合、我が国と同盟国は次の季節までに10年分の資源、人材、国土を失うと算出されました。」

経済大臣が言うと再びどよめく会議室。

「机上の空論であろう!」

会議室内の誰かが反論した。

「いいえ。」

と、毅然と言い返す経済大臣。

「それだけではありません、歴史的に重要な記録や文化財、観光資源や連綿と続いてきた人類の遺産すべてが危険に晒されます。」

経済大臣が感情を現さずに言うと、

「また作り直せば良い!」

と再び先ほどと同じ人物から反論の声が上がる。

「不可能です。」

と、やや不快感を表した声色で言い放つ経済大臣。

「現在では失われた知識と技術が使われた物がほとんどです。まだ未発見の物も多数あります。我ら人類の築き上げたものすべてが今、危機に瀕している!」

演説のごとく、語気を荒くする外務大臣。

「この国は未だ安全だ、いささか早急では?」

大臣とは対照的に、全く感情を表さないミカエル王が尋ねた。

それを受け、ため息をつく経済、外務大臣。

「法務大臣の助けを借りて決議案を作成いたしました。」

「議会と閣僚の過半数とミカエル王の承認が得られればすぐにでも交渉に入る用意が整っております。」

経済大臣が係の兵士に手で合図を送りながら言う。

すると、公文書特有の丁寧な造りが施された書面が一通だけ兵士に抱えられて姿をあらわす。

「見せたまえ。」

ミカエルの近くで紙を広げる音が響く。

「・・・我が国は魔族との恒久的な和平を望んでおりその領土は互いに不可侵である・・・。本気で言っているのか?」

鼻で笑いながら、率直な疑問を大臣二人にぶつけるミカエル。

「多少は相手に花を持たせませんと。」

平然として外務大臣は王に対して言い返す。

「信じられん、この売国奴め!」

会議室内の誰かが罵倒したが、

「近衛隊長、批判は後にしていただきたい。」

平然と受け答えする外務大臣。

どうやら先ほどからヤジを飛ばしているのは近衛部隊の隊長のようだ。

ミカエルとサミュエルにとっては一番の側近である。

「いかがです、ミカエル王?」

顔色をうかがうように経済大臣が尋ねた。

「私一人では決められぬ、先に議会の評決を待つように。」

ミカエルが冷静な声で言うと外務大臣が立て続けにまくし立てた。

「それでは何週間も掛かります!」

「この案には法的な拘束力があり、それはミカエル王の署名さえあれば議会の承認を待たずとも良い、というものです!」

外務大臣の一連の言葉を受け今までで一番会議室は騒がしくなったが、

「静粛に!」

とのミカエルの一声で静まった。

「法務大臣?」

ミカエルが尋ねた。

「ええ、外務大臣のおっしゃる通りでございます。」

経済大臣とは違う、低い女性の声が会議室にこだました。

「早まったことを・・・。」

近衛隊長は絶句した。

「必要な事をしたまでです。」

外務大臣が言った。

しかし、ミカエルは玉座から立ち上がると、

「この国の王は私である、君たちでは無い。」

会議室に居る全員に聞こえる大声で、毅然と言い放った。

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