第11話 旅立ち
翌朝の城下町。
兵士が見回るなか、朝の散歩も兼ねて夜明け前の薄暗い時間帯にサミュエルはフリードと共に宿を後にした。
(みんな、来るかのう・・・。)
一抹の不安はすぐに解消された。
旅荷物を背負ったエルンスト、ファルニール、ブルンニルの三人が既に城門前に集結していたのである。
「お早いのう、びっくりしたわい。」
「痣がうずいて寝付けませんでしたよ。」
エルンストは鳩尾に手を当てて苦笑いしている。
「私たち夫婦も同行させてください、ですが・・・。」
「・・・おーい!」
そう言いかけると遠くから見覚えのある褐色の女性が走り寄ってきた。
自身と同じくらい大きな旅荷物を背負っている。
四人の前に到着すると、息を整えてから言い出す。
「アタシも行かせてくれ、お願いだ!この通り!」
深々と頭を下げるナンス。
三人は困惑した表情だったが、サミュエルは笑顔だった。
「気に入ったわい、負けっぱなしは性に合わんかの?」
「縛り上げた他の連中はどうしたんだ?」
「あの状況から抜け出すなんて、器用な人ですのね。」
「・・・確かに僕は、旅は道連れと言いましたが。」
「くんくんくん・・・。」
思い思いの反応に、ナンスは順を追って答えた。
「ああ、負けるのは大っ嫌いさ、全員アジトに送り返して稼業はしばらく廃業だ、だろ?昔から器用さ、聞こえてたぜ、エルフの旦那。」
そして、匂いを嗅ぎ続けるフリードにビスケットを与えた。
嬉しそうに頬張るフリードをよそに自分を売り込むナンス。
「身の回りの世話は何でもできるぜ、こう見えて孤児のガキどもからは母ちゃんって呼ばれてんだ。」
「ぶっちゃけ道中で手に入る財宝目当てだろう?」
腕を組んで呆れるエルンスト。
「まあ、それもあるけど、金目の物なら何でも査定できるぜ、武器や装備を直したり作ったりすんのも大得意だ。」
ナンスの自分を売り込むセールストークは続く。
「まるでここの商人のような売り込みじゃの?」
笑いながら気を良くするサミュエル。
「私たち夫婦はそういった事には疎いですので、ナンス様の加入には賛同です。」
「しかし、怪しい動きがあれば容赦はしませんよ?」
彼女に釘を刺すファルニールとブルンニル夫妻。
「しないしない!アンタの矢を受けるのはもうこりごりだ!縛られるのも。」
本気で嫌そうな顔をするナンス。
「なら、決まりじゃの。」
サミュエルが一同を見回して言うと、渋々承諾した様子だった。
「ああ!よろしくな!」
ナンスは陽気に挨拶をする。
「さて、何の話じゃったかのう?」
ファルニールに向き直って尋ねる。
「ええ、続けさせていただきます。」
咳払いし、続けるファルニール。
「旅には同行させてください、ですが、まずはエルフの森里に帰り準備と一族に別れを告げたく存じます。」
ファルニールは小股で歩き回りながら続ける。
「あなたがたもエルフの鍛えた武器や鎧を目にし、さらには無償で持ち帰る事も可能であるとお約束いたします。」
妻の提案を大きく頷いて肯定するエルンスト。
「すっげえ!」
「ほお・・・。」
驚くナンスと、ため息をつくサミュエルとエルンスト。
エルフが鍛えた武具はドワーフ製と並び賞される、最高級品である。
繊細だが洗練された作りのエルフ製と、質実剛健で頑丈なドワーフ製。
この二つはまさしく陰陽の関係であり、現役のうちにどちらかを手にするのが武芸に秀でた人物の夢である。
「あたし、一度で良いからエルフの短剣を手にとってみたかったんだ!」
「双剣は特注できるとしたら、完璧だ。」
「儂の場合、鎧と兜かのう、老体には雑な作りが堪えてしもうて・・・。」
三者三様の肯定的な解答であった。
「・・・クゥーン?」
フリードだけは首を傾げて、怪訝な表情である。
「大丈夫よ、忠犬さん。」
ファルニールはしゃがみ込んで目線をフリードに合わせて語りかけた。
「森には小動物が沢山いるわ、狩り放題よ?」
理解したのかは不明だが、わんわん!と元気に吠えて納得した様子のフリード。
「では、満場一致かのう?」
リーダーであるサミュエルが尋ねると、全員が笑顔を見せてうなずいた。
旅路の始まりである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます