第10話 それぞれの夜

市場は非常事態宣言もあり普段より早い店じまいとなった。

大広場に集まった一同にサミュエルは語りかけた。

「エルンストと儂は今日ここでお互いの同意のもと、戦った。」

名前が出てきたため、エルフの二人に会釈するエルンスト。

サミュエルは続ける。

「儂の勝利に終わったが、儂の目的は賞金や名誉よりもっと大切な物を得るためである。」

一呼吸置いてから本題に入るサミュエル。

「仲間だ、寝食、苦楽を共にし、旅路を歩む・・・旅の目的は一つ。魔王軍を偵察することである。」

エルフの二人は真の目的を知り、多少驚いたものの、熱心に耳を傾け始める。

「儂はサミュエル前王の特命を帯びて今日、エルンスト、ファルニール、ブルンニルの三人を見いだした。」

一人ずつ名前を挙げて顔を見つめるサミュエル。

全員が今は真剣な表情である。

「どうじゃ?このまま魔王軍に侵略される事をよしとせぬなら、儂と共に戦ってはくれまいか?」

フリードを除く全員が視線を落として考え込む。

「もちろん王国の後押しとサミュエル前王直々の礼金と表彰が約束されておる、返答は今すぐで無くとも良い。」

「賛同するなら明日の夜明け、城門前にて待つ。」

「ではな、解散じゃ。」

サミュエルの言葉を聞き、おのおの宿へと戻って行った。

宿へフリードと共に戻ったサミュエル。

エルンストに付けられた傷口を包帯の上からなぞりながら今日一日の出来事を思案していた。

(エルンスト、双剣使いの大男、物分りの良い男だ。)

(性格の良さを見いだされたか、あまり人には懐かないフリードもすぐに打ち解けた。)

(故郷を遠く離れ、流浪の旅を続ける志の高い人物。)

(ナンスとか言う盗賊の頭領には驚いた。)

(そこそこ腕は立つ様子だったが、根性の座った気丈な女であったな。)

(ファルニール、ブルンニル夫妻の助太刀でだいぶ手間が省けた。)

(市場を案内してその恩義に報いる事が出来ておれば良いがのう。)

(じゃが、問題は明日の朝じゃな、天蓋付きベッドが恋しいがこれも一興じゃ。)

サミュエルは既に眠っているフリードを見やると、大きくあくびをして床についた。


エルンストは宿に戻ると、すぐに愛用の双剣をろうそくの明かりの下で確かめた。

(そこまで刃こぼれはしていない、これならまだしばらくは持つだろう。)

市場で購入した皮財布と剣の手入れ用具一式を背嚢にしまうと、双剣の素振りを始めた。

顎下とみぞおちの痣がうずくが、動作に乱れはない。

それだけ確認すると、剣を枕元に置き、ろうそくを吹き消すとすぐに眠った。


「・・・あなた、どうします?」

広い部屋の一室で部屋着に着替えた二人は荷物をまとめていた。

手を止めて、夫ブルンニルに尋ねるファルニール。

「まずはエルフの森里に帰ろう、準備不足が過ぎるし、一族に別れも告げていない。」

妻の問いに答えるブルンニル。

「そうですわね、でも私たちの真意は一致していると感じております。」

「もちろんだとも、ファル。」

「明日は早いからもう休もう、お休み、ファル。」

「お休みなさい、あなた。」

短くキスをかわすと二人は同じベッドで眠りについた。

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