第9話 市場

市場は普段の賑わいは無いものの、客層が巡回の兵士に変わっただけのようだった。

(相変わらずたくましいというか、浅ましいというか・・・。)

若干、呆れてしまうサミュエル。

「うわあ、凄い品数ですこと・・・。」

「一体、どれだけの種類が並んでいるのか把握している人は居るんだろうか?」

物珍しいのか目移りしているファルニールとブルンニル。

クンクンと周囲を嗅ぎ回るフリードの手綱を握り、無言で前を向いているエルンスト。

「サミール様、野菜や果物の類いはありませんか?」

サミュエルに尋ねるファルニール。

そういえば、と合点がいくサミュエル。

エルフは菜食主義である。

聞けば、塩辛い物や脂っこい物、香辛料などは苦手らしい。

森の民特有の特徴である。

「おお、それならばあちらじゃ、儂に付いて来なされ。」

一同を先導し、案内するサミュエル。

何を隠そう、何十年も前に区画整備を指示したのはサミュエルその人である。

もちろん、完成時に視察も行った。

南から総菜屋台、中央に野菜や果物そして精肉を扱う市場。

北に行くと趣味の工芸品や武具などの露店が立ち並ぶ。

経済大国ウィンストの心臓部とも言える城下町の市場。

その規模と品揃え、そして商人たちのセールストークの巧さは西の大陸随一である。

「みんな、気安く商品に触れぬように、買う気があると見れば何をされるか分からぬぞ。」

苦笑いしながら一同に忠告するサミュエル。

程なくして青果・生鮮市場にたどり着いた。

「美味しそうですわね、ほら。」

「いやあ参ったな、うちの畑じゃどう頑張ってもここまでは。」

色とりどりの野菜や果物を見て、軽い感動を覚えるエルフの二人。

野菜を見て少し気分が悪いのか、グルル、と唸るフリード。

「エルンスト殿、すまぬが更に北の武具や皮革製品の露店に行ったらどうかの?」

提案するサミュエル。

「皮革は大好物でね、丁度、皮財布でも買おうと思っていたんだ。」

笑みをこぼす。

ワン!と賛同した様子のフリードを伴って北に向かった。

「屋台が閉まる時間に大広場に集合じゃ! 」

市場の喧噪に負けぬようエルンストに向けて叫ぶサミュエル。

彼は振り返りお辞儀をすると、フリードの手綱を握って人混みに紛れた。

「さて、どうじゃ?お二人さん。」

エルフの二人に向き直り、尋ねるサミュエル。

すると、いつの間にか紙袋いっぱいの野菜や果物を手にしたファルニール。

リンゴとイチジクをほおばるブルンニルが居た。

「・・・すっかり満喫したようで何よりじゃ。」

二人の様子を見て安心したサミュエルであった。

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