The calm before the storm ③

「お疲れロリーナ君、序盤は良かったけど終盤になるにつれて成績が落ちているね。集中力と体力と忍耐力が少々足りないのかな、何にしろ少し諦めも入っていたと思う」

「8時間休み無く死亡判定が出たら飛ばされてを繰り返したらうんざりもする」

「今の時代の戦場に休憩は無いよ、君たちは勘違いしてないかい?」

「でも教官の戦い方は感覚寄り」

 どの戦闘でも思い出してみればこの教官は軍人としての戦い方ではなく、予想外な方向からの射撃や背後を取ったりするものだった。それもロリーナが攻めているにも関わらず、いつも先に標的を見つけていたのはニコラの方だ。

「私は海兵隊の特殊部隊所属だからね。軍人と言うよりは君たちに近いのかもしれないね」

「あっそ」

「ひとつ聞いても良いかなロリーナ君」

「なに」

「天才と凡人の差ってなんだと思う?」

 一生答えが見つかりそうもない突飛な問い掛けに、ロリーナは少し考えてから答える。

「先天的なもの」

「んー……私はね、自分が出来る事と周りが出来ない事を明確に把握する事だと思うかな。君は鼻が良い筈だよ、もっと目や勘よりも鼻に頼っても良いんじゃないかな」

「鼻はそんなに良くない」

 珍しく一瞬だけ眉を寄せたロリーナが無表情に戻るのを待たずに、もうひとつ言葉を紡ぐ。

「それと、これから仕事をする上でストレルカとベルカの名を聞いたらすぐに逃げなさい。その他にあと5人逃げた方が良い人物が居るけど、その2人は特にね」

「どうして」

 演習を始める前から飲んでいた冷め切ったココアを飲み干し、ニコラはポケットからチョコを7個取り出す。

「少し前のお話なんだけどね、本当に波乱だった時代に7人のスターと呼ばれるギャングが居てね。所謂ギャングスター、モブスターとは一線を画した各ギャングに所属してた実力者」

「でもギャングは公安や警察が総力を挙げて幹部やボスを一掃した」

「まぁまぁ、それは効果的だったけどね。効果的過ぎた結果7人のセブンスターを始め、ほとんどが他の組織に流れたり殺し屋に転身したりしてね。まず世界最強のストレルカはアメリカ海兵隊。そして世界最高峰が3人。ベルカはイギリスのロイヤルガード。リアムがイタリアのコロネルモスキン。そして最後にディートリヒ、君の上司であり長官だね、他の3人はそれぞれ居るからまた後日データで送るよ」

 訪ねてきた軍人を待たせていたニコラは話を掻い摘み、ロリーナに忠告をして廊下を部下と歩いて行く。

 残されたロリーナは疲労した体に鞭打って反対の廊下を歩き、汗を流すためにシャワールームに向かう。

「ベルカ」

 そう一言呟きを残して。

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