The calm before the storm ④

 大量の車や人が往来する都会の街の遥か地中。車1台も滅多にすれ違わない巨大通路を、ロリーナはバイクをフルスロットルでぶっ飛ばしていた。

 ニコラに聞いたセブンスターを調査するため、独断で単独行動に踏み出た。


「こちらオフィス。通信士のゼーレです」

「なに」

 突然外付け通信機から聞こえた声にロリーナは一言で無愛想に返し、アクセルを少しだけ緩める。


「地下高速道路の使用が申請されていません、目的地はどちらですか」

「関係無い」

「申請は決まりです。緊急措置として隔壁を落としますので直ちに停車してください」

「あー待ってくれゼーレ。レオだ、俺が協力者を迎えに行くように頼んだから。それに使用申請はレオで出てると思う、それは俺のミスだすまん」


 会話に割って入って来たレオが言うと、ゼーレは確認したのか「今後は気を付けて下されば大丈夫です」とだけ言って引き下がる。


「ふぅ……単独行動は禁止だぞと」

「昨日シャワールームでセブンスターのひとりの居場所が送られてきた」

「あぁ、それは俺も見た──お前まさかひとりで行くつもりかよ!?」

「ターゲットは待ってくれない、必ず確かめる」

「とにかく待ってろ、今日退院予定だから」

「来る頃には終わってる」

 それだけ言って一方的に通信を切り、着けていた通信機を道路に投げ捨てる。


 通信機に付けられていたGPSが壊れてロリーナの居場所を追えなくなったレオは急いでベッドから跳ね起き、4階の病室の窓から飛び出す。

 グラップルガンで木を使ってブランコの要領で着地し、勢いを殺さずに走り出す。


「オフィス! レオだ、今すぐバイクと装備を要請する」

「ゼーレです。困ったフラテッロですね、近くのステーションに誘導します。今度はフォローしません」

「上々だぞと」


 病院着のまま近くの廃墟に駆け込み、網膜でIDを読み込ませると床が開いてバイクが上がってくる。壁から服と装備を取り出して身に着け、バイクに股がってエレベータで地下に下降する。そのまま地下高速道路に繋がる道に射出され、スロットルを全開にしてロリーナの後を追う。


「あいつにも通信機、埋め込まねーとだぞと」

 道に投げ捨てられた通信機を見付けたレオは呆れてまた前を向く。


「地下高速道路への進入を確認した。ロリーナの予想地点は約3キロ先、いや、今カメラに姿を捉えた。10キロ先だ、異様に速いな」

「初めて聞く声だ」

「紹介が遅れて申し訳ない。私は今日配属されたハリス、今回の担当だ。よろしく」


 新人とは思えないような落ち着き様と堂々とした物言いに、レオは上官を前にしているみたいに落ち着かなかった。


「短い間の急造オペレーターだ、次は現場で会えると嬉しいねぇ」

「あんたエージェントなのか、オペレーターは人手不足が深刻って聞くけどこりゃいよいよ酷いな」

「全くだよ、私はセブンスターを追っていたと言うのに。上が突然その任を取り消してね、今や落ち着かない椅子で座っている始末さ」


「セブンスターか」

 含みのあるような呟きをしたのをハリスは聞き逃さず、レオは微かに聞こえる遠いエンジン音にスロットルをまた少し捻る。


「セブンスターを知ってるのかあんた」

「あぁ、まだエージェントになりたての時にな、手も足も出なかった」

「因みに誰だったんだ?」

「その時は全く知らなかったけど、世界2位のベルカだったらしいぞと。俺と歳も変わらないようで、あの時俺は18であいつが15に見えた、けど後でニコラ教官に聞いたら13だったらしいな」

「ニコラ教官か、彼はやけに詳しいな。今でさえベルカは1番情報が少ない、当時で年齢が分かるなら何かあるに違いない」

「お話はまた今度だぞと。おしゃべりなオペレーター」


 マシンスペックでは遥かに上だったが、結局追い付けなかったレオは地下高速道路から出て公道に入る。今回の舞台となるイギリスのロンドンに到着し、近くのステーションにバイクを預ける。

「さてと、お仕事だぞと」

 まだ治りきってない肋骨を擦りながら歩き出し、人が往来する街の中からロリーナを探す。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

The Golden Afternoon 雨宮 祜ヰ @sanowahru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ