第9話 植物少女の記憶
最初は、「自我」というものを持っていなかった。
自分の存在すらも認識できなかった。
私は、ただ呆然と無数の足を地に突っ込み、深い土の中から水分と養分を体内に取りこむ事で生命を維持していたんだ。
あの女が現れるまで、ずっとそればかりだった。
「ほう、なかなか元気な子だね。よし、君に決めた!」
趣味の悪い女だ。何を考えているのか、知能を持たない私には分からなかった。
あいつは膨大な魔力を私にぶつけて、私を進化させた。
本来私が持っていなかった視覚、聴覚、思考と言語能力を、私にくれた。
その上で、私の体の一部が人の姿になっていた。
少女のような幼い顔、長い髪、細い両腕、あと妙にでかい胸。
勝手に私の体を改造するなんて、迷惑な事だ。
ただし、開眼した事により、私は彼女の姿を認識する事ができた。
彼女は嬉しそうに笑っている。
その頭の上に、光の輪っかが浮かんでいる。
変な白い翼を彼女の背中に生えている。
あいつは神の使者、天使だ。私の思考がそうと認識している。
「ふふ、ついでに名前もつけてあげようか。何にしようかな?かわいいのがいいな~」
名前まで付けようとしている。
でも、私は名前を必要としていない。
今の私なら、口で拒絶する事ができる。
「名前はどうでもいい。貴方は何者だ?」
「それは教えない~」
「目的はなんだ?なぜ私を改造した?」
「君を強くしたいからだよ!感謝しなさい!」
「強くしてどうする?私の力を利用したいのか?」
「正解!」
「断る。貴方の指図を受けるつもりはない」
「君には断れないはずだよ。なぜなら、わたしはこの世界の支配者であり夢の迷宮の主!天界最強の大天使、スノー様だぞ?偉いんだぞ?言うことを聞かないと、殺っちゃうぞ?」
あいつ、教えない~って言ったのに、あっさりと正体をバラしやがて。頭悪そうな女だ。
でも、あいつから凄まじい魔力を感じる。
今の私じゃ逆立ちしても勝てないほど膨大な量だ。
どうやら逆らわないほうが賢明のようだ。
「スノー様。私は何をすればいいですか?」
「その前に!命名!うんとね、ジュリア!君の名前はジュリアに決定!パチパチパチ!」
「ありがとうございます」
「いい子だね!まあ、君はとりあえず、今までのように生活すればいいよ。そのうち敵がくるかもしれないから、そいつらを倒しちゃえ!」
「了解しました」
「じゃあ、今日はこの辺で!バイバイ~!」
スノーは一瞬で目の前から消えた。
結局、彼女の目的がわからないままだ。
私は彼女の言うことを従うしかない。
何故なら、今の私には「死にたくない」という願望が芽生えたからだ。
あとは敵を待つのみ。私は待つことが得意だ。
待つ。敵が来ない。
待つ。敵が来ない。
待つ。敵が来ない。
待つ。ついに、スノーが言っていた「敵」が現れた。
一人はサキュバス。
もう一人は人間の男。
とりあえず、こいつらを殺せばいいか。
そう考えた私は、やつらと戦うことになった。
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