第6話 恋する乙女

 そういえば、セーミスちゃんが全然降りてこないな。ちょっと聞いてみようか。


「セーミスちゃんはあんな高いところで何をやってるの?早く降りてこいよ」


「手頃のモンスターを探しているよ。敵に襲われる側より、わたしは襲う側のほうが好き」


「まあ、確かに不意打ちされるのは嫌だけど、セーミスちゃんって、意外と攻撃的な性格だね」


「そう?普通だと思うんですけど・・・」


 全然普通ではない。サイナーベルの時もその片鱗を見せつけられた。セーミスちゃんは怒るとめちゃくちゃ怖い。


 その時、セーミスちゃんが興奮した様子で降りてきた。


 近くでよく見たらセーミスちゃんの耳が長い!しかも尖っている!やっぱ悪魔の体は人間と違う構造になっているだな。


 服もいつの間にか露出度が高い物になっていた。肩、ヘソ、太ももなど、いろんなところの白い肌が無防備で晒しだしていた。まるで魔法少女の変身みたいだ。


「そんなに見つめられていると、ちょっと恥ずかしいな~」


「すまん、ついつい。で、早速雑魚モンスターを見つけたのか」


「そうですよ!カイン君の後ろ、二百メートルくらいのところに、低レベルのスライムが三匹」


 スライムってあのゲームでよく見かけるスライムか!弱そうなモンスターで良かった。初心者の俺も簡単に勝てそう。


「で、俺はどうやって戦えばいい?やっぱ最初のうちは木の棒を装備したほうがいいの?」


 俺はたまたま近くで落ちた短い木の棒を拾った。


「そんなガラクタを装備したって無駄だと思うんですけど。スライムには物理ダメージがあんまり通らないから。魔法か、火炎瓶のようなアイテムで戦うほうが効果的ですよ」


「え、木の棒って魔法力を1ポイントくらい上がらないの?」


「上がらないよ。すぐ折れそうだし、素手以下ですね」


 ボロクソ言われた。仕方なく木の棒を捨てた。ゲームを信じいた俺がバカだった。


「カイン君、今から炎の魔法・ファイアボールを教えますね。そんなに難しい魔法じゃないから、一発で覚えてくださいね」


「おお、頑張ってみるよ」


 結果、俺は一発でファイアボールを覚えた。


 頭の中で自分の右手を拳銃だと強くイメージングして、弾丸を飛ばす感覚で魔力の塊を人差し指から射出。このコツさえ掴めば簡単にできる。


 俺は指先で形成した炎の玉を木に目掛けて発射し、その木を燃えさせることに成功した。


「すごいねカイン君!本当に一発でできたなんて」


「コツを教えてくれたセーミスちゃんのおかげだ」


「いえいえ、そんなに謙遜しなくてもいいよ。やっぱりカイン君には素晴らしい才能があったんですね!」


「いや、そんなに褒めるなよ。で、この燃える木はどうするんだ?このまま放置したら大火災になるんじゃないか?」


「大丈夫ですよ。わたしが処理してあげるから」


「できれば別の物も処理してくれると嬉しいんだけど・・・」


「え?何が?ちょっと聞こえないよ」


「いや、独り言だ、気にしないでくれ」


「そう?」


 セーミスちゃんは両手をかざして、黒い魔力の塊を燃える木にぶつかる。そして徐々に火が小さくなっていく。


 良かった、消火に集中しているセーミスちゃんは俺の心を読む余裕がないようだ。


 俺ってどうかしてるぜ。卑猥なことを言うと嫌われるかも知れないのに。でも、何でだろう?何かこの完全体のセーミスちゃんを見ているうちに不健全な欲望が段々と溜まっていく。


 今はまだ理性でなんとか制御できるんだけど、そのうち抑えられなくなったら、俺はセーミスちゃんを押し倒すかもしれない。いやダメだ。それじゃレ○プと変わらないだろう。大切な人にそんな真似ができない。せめて合意の上でやらないと・・・


 ええい、煩悩よ散れ!南無阿弥陀仏!


「はい、終わったよ。今のはアンチマジックっていう闇属性の上級魔法で、他人の魔法を打ち消す効果があるんですよ。今のカイン君のレベルじゃ習得できないけど、もっと経験を積めばそのうち習得できるかもね」


「ソウカ。スゴイデスネ」


「ん?カイン君、カタコトになってる」


「ソンナコトナイヨ、ハハハ」


「ならいいけど・・・それじゃ、モンスターを倒しに行こうよ!」


「ハイ」


 俺は自分の感情を一旦封印して、モンスターが潜伏してるとこに目指して歩き出す。


 そしてあっさりと目当てのスライムと遭遇した。


「頑張って、カイン君!」


「ファイアボール」


「ピギャー」


 スライム3匹を全滅させた。


「やったねカイン君!思ったより簡単だったでしょ?」


「まあ、手応えがないくらいだ。やっぱ雑魚って感じ?」


「それくらいがちょうどいいですよ、小さな成功で自信を身につく事も大事ですよ。本番は夜なんですし、今のうちに魔法に慣れていきましょう」


「よーし!気合を入れてもっと雑魚を蹴散らすぞ!」


「その調子です!」


 その後スライムを100匹くらい殺した。魔法の熟練度もかなり上がったような気がする。


「ちょっとステータスを確認するね。えい!」


 セーミスちゃんのかわいい掛け声と同時に、何かゲームのステータス欄みたいなリストが目の前に出現した。



対象:カイン

状態:軽い疲労

職業:魔法戦士

精神: 66/120

生命: 88/100

攻撃:  5/ 12

防御:  3/ 10

速度: 10/ 15

特性:人間(凡俗・矛盾的・社会的な生物)

   悪魔の契約(魔法解禁・魔力上昇。契約対象:悪魔セーミス)

   魔法の才能(炎)

   戦士の才能(剣)

特技:拳で殴る(物理攻撃)

   ファイアボール(炎属性攻撃魔法)

必殺:無し、あるいは未覚醒



「えっと、これは?」


「カイン君の今の強さです。わたしの能力・魔眼デビルアイを使い、対象の能力値を調査することができるのです!そしてその調査結果を、テレパスィを応用して、カイン君の頭に映像を送れるんですよ!精神って項目は、魔力の残量と魔法の威力だと思っていいよ。どう?これでゲームぽくになったでしょ?」


「確かにゲームぽいな。でも、自分だけのステータスを見ても、いまいち強さがわからないな」


「確かにね。じゃ比較用として、今のスライムの数値も送るね!えい!」



対象:スライム(過去のデータ)

状態:正常(数値の変動は無し)

職業:無し

精神:2

生命:20

攻撃:5

防御:99

速度:1

特性:低級魔族(無知・攻撃的・自由気ままな生物)

   物理耐性

   化学耐性

   魔法耐性(水)

特技:体当たり(物理攻撃)

   腐蝕(化学攻撃、触れるものを腐敗・変質させる)

   毒液(化学攻撃、相手を毒状態にする)

必殺:合体(条件:仲間が5匹以上)



「やっぱ雑魚じゃん。そういえば、セーミスちゃんの数値はどれくらいですか?」


「わたしの、ですか?えっと、見ても笑わないでくれるなら、見せてもいいけど」


「笑わないよ。早く見せてくれ!俺はセーミスちゃんの事が知りたい!」


「じゃあ・・・えい!」



対象:わたし

状態:弱体

職業:悪魔術師

精神: 35/520

生命:165/320

攻撃: 86/255

防御: 15/102

速度: 13/202

特性:悪魔(賢い・本能的・欲望に忠実な生物)

   魔法の才能(闇・炎・空間)

   魔法耐性(闇)

   弱点(光)

   飛行の才能(空高く飛べる)

   処女(闇属性の威力が50%減少)

   恋する乙女(すべての攻撃の威力が30%上昇)

特技:以心伝心(テレパスィ、精神魔法)

   空間転移(テレポート、空間魔法)

   火炎魔弾(ファイアボール、炎属性攻撃魔法)

   暗黒射線(ダークビーム、闇属性攻撃魔法)

   魔力相殺(アンチマジック、魔法の効果を打ち消す)

   変身(チェンジ、人間の姿になり、魔力の消耗を最小限にまで減らす)

   魔眼(デビルアイ、相手の情報を獲得)

   使い魔教育(他の生物を使い魔として操れるように調教する)

必殺:爆裂赤魔弾(炎属性攻撃魔法、破壊力が高い)

   爆裂黒魔弾(闇属性攻撃魔法、破壊力が高い)




「こ、恋する乙女ってスキルのうちに入るのか?へー、知らなかったよ」


「むー、だから見せたくないのにー」


「ごめん。まあ、いろいろと突っ込みどころがあるんだけど、セーミスちゃんってやっぱ強いな。俺の助けなんて全然いらないじゃない?」


「そんなことないよ。カイン君はまだまだこれからがあるんじゃない?すぐわたしを超えられるんですよ!」


「セーミスちゃんがそういうなら、俺も頑張ってみるよ」


 正直俺はセーミスちゃんの実力にびっくりしていた。なんだあの数値は。俺より遥かに強いじゃないか。


 このままじゃ彼女を守るどころか、彼女の足手まといになってしまう。そんなの絶対嫌だ!


 早く成長して、もっともっと強くなって、セーミスちゃんの力になりたい!

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