第5話 夢の空間へ

 それからのセーミスちゃんはなんか様子がおかしい。


「はああ・・・」って、ため息を漏らす。


 まさか、まだ落ち込んでいたままなのか。


 ここは一つ芸を披露して、彼女を俺の超絶凄ワザで笑わせよう!


 ちょうど猫耳メイドが持ってきた箸があるので、それを自分の鼻の穴に突っ込む。


 そして口を大きく開いて、そのまま二本の箸を口に乗せる。


 よし、完璧に決めた!


 俺は今までこの技で数々の飲み会を乗り越えてきた。これを見た人間は笑わずにはいられないはずだ!


「ぷ、( ゚∀゚)きゃはははは!!面白い顔!!」


 俺の芸で猫耳メイドを見事撃沈した。腹を抱えて大笑い。それより語尾はどうしたよ語尾。にゃーって鳴けよ。


 肝心のセーミスちゃんはどうだ?


「カイン君・・・な、何をやっているんですか」


 よかった、すこし笑っていたように見える。


「一発芸だ。セーミスちゃんの為にやっているんだよ」


「なんだか、バカみたい・・・でも、ありがとう、カイン君。その箸はもう使えないから、新しいのを替えたほうが・・・」


「大丈夫だ。俺は既に食べ終わったから、その必要はない」


「え、あ・・・」


 全然気がつかなかったようだ。それほど落ち込んでいたのか。


「じゃあ、わたしも早く食べなきゃ・・・え?いつの間に?」


 今度は自分の皿が既に空っぽになった事を発覚。


 落ち込んだとはいえ、無意識のうちに飯を口に運んでいたセーミスちゃん。食欲に忠実なその姿が微笑ましい、実に可愛かった。


 そこで、猫耳メイドが近寄る。


「ご主人様たち、メイドとゲームをやらないかにゃー?できればこの夢子をご指名してくれたら、特別サービスもしちゃうにゃー!」


 夢子という名前だったらしい。


「いいや、俺には彼女がいるんだ。他の女と遊んでる暇はない」


「ガーン!Σ(゚д゚lll)ショックですにゃー」


 表情が必要以上にコロコロと変わる。忙しいやつだな。


「お言葉ですがカイン殿、それはおかしいでござる。サイナーベルに来ておいでゲームをやらないのは、メイド萌として失格かと思うでござる」


 今度はメガネをかけた変な男が俺の前にやってきた。サムライ口調がムカつく。何なんだこいつ?


「お前は誰だよ」


「拙者、夢子ちゃん推しの秀夫でござる。夢子ちゃんを悲しませるのは万死に値する罪でござる」


「別に悲しませたわけでもないだろう。そんなにゲームがしたいならお前がやれよ」


「くぅ・・・ごもっともでござる。夢子ちゃん、こんな非常識なやつなどほっといて、拙者と遊びましょうよ!」


 お前が一番非常識だ。


「ありがとう秀夫ちゃん!夢子はとってもとっても嬉しいにゃー!というわけでご主人様、夢子はこの人と遊ぶから、もうあなたの事なんか知らないにゃー!べー!」


「勝手にしろ」


 会計を済んだ俺はセーミスちゃんと店の外に出た。


「いってらっしゃいませ、ご主人様、お嬢様!」


 多分俺はもう二度とこんな店に来ないだろう。あんなハイテンションな女の子と話すのはかなり疲れる。


「面白い店でしたね。また行きたいです」


「はは、俺もそう思ったよ」


 まあ、セーミスちゃんの為なら、俺は地獄にだって行けるさ。


 それから自宅に帰ったけど、相変わらず俺の部屋が散らかってる。これは恥ずかしい。


 よし、軽く掃除しよう。


「掃除するの?お手伝いしますよ!」


「いや、俺一人でいいよ。セーミスちゃんは客だからさ」


「客じゃなくて、か・の・じょ!彼氏を手伝うのは当然の事です!」


 嬉しい事を言う。


「それじゃ、窓の方を頼むよ。」


「ラジャー!」


 セーミスちゃんの手伝いのおかげで、掃除が早いペースで進んだ。


「カイン君、ベッドの下にあるエッチな本はどこに置けばいいんですか?」


「げげつ!そ、それはゴミ袋に捨てろよ」


「え?大事な本じゃないですか?捨てていいの?」


「いや、それほど大事でもないから。俺もいつ捨てようかずっと考えたけど、なかなか決心がつけなくて・・・」


「ふぅん?カイン君、大きい胸が好みなんだ、へえ~」


「よ、読むな!俺の性癖を分析するな!」


 セーミスちゃんから本を取り上げた。


 これはセーミスちゃんを傷つける可能性がある危険品だ。捨てなければならない。


 さようなら、俺の宝よ。


 掃除が終わったあと、ようやく本題に入った。


「よし、今から魔法の練習を始めよう!具体的どうやればいい?」


「そうですね。夢の空間へ行くために、まずはぐっすり眠る事からです」


「睡眠か。あれは俺の得意分野だ、二分で眠れる」


「本当?カイン君すごい!」


 セーミスちゃんに褒められた。ちょっと恥ずかしいな。


「それじゃあセーミスちゃん、おやすみ・・・・・・ぐうぐうー」


 ベッドで横になった俺は速攻で夢に落ちた。あとは彼女に任せよう。


 目を覚ますと、知らない森の中にいた。


 どうやら、セーミスちゃんの能力で異空間に転移したらしい。


 でも、セーミスちゃんがどこにもいない。


「セーミスちゃん?どこにいるんだ?」


「ここですよ!」


 なんと、上の方からセーミスちゃんの声が。


 上の方を見てみると、空に飛んでいるセーミスちゃんを発見。


 よく見たら、セーミスちゃんの背中に黒い翼が二つ生えている、それのお陰で空に浮いていた。


 頭にもヤギに近い形の大きな角が髪の毛を分けて現る。


 お尻から黒くて長い尻尾が見える。


「へへ、驚いたかな?これがわたしの完全体ですよ」


「確かに驚いた・・・普段はどうやて隠したのか?」


「普段は隠しているのではなく、省エネモードです。魔力が足りないから、この形態を維持するのが難しくて」


「そうなのか・・・」


 やっぱり、彼女は悪魔だった。


 いや、俺はそう信じてたけど、実際に見るのやっぱり衝撃が大きい。


 これからもっと衝撃的な事があっても、おかしくないだろう。

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