第4話 初デートでパンツ丸見え?

 料理屋に行く途中、セーミスちゃんは一旦バイト先に戻って服を着替える。


 数分後、私服で出てきた。


 あんまりにもかわいい姿に、俺は絶句した。


 桃色のスカートはちょっと短い気がするんだけど、足全体が黒いタイツに包まれるによってパンツを見られる心配はない。非常によろしい。俺は生足よりタイツのほうが好きだ。


 上半身はピンク色のシャツ。白い上腕が眩しい。


 胸はまあ、仕方ない。天は二物を与えずって言うし。


「おまたせ~!ど、どうですか?この服はお気に入りなんですけど・・・」


 くるりと一回転する。スカートふわり、なのにパンツが見えない。


 俺は服の品質がいまいちわからないけど、とりあえず個人的な感想を言う。


「すごくかわいい!似合ってる!」


「えへへ、ありがとう!カイン君に褒めらると嬉しいよ」


 そういえば俺は今どんな恰好をしているんだろう。清潔には気を使ってるんだけど、服はダサいかもしれない。半年くらい新しい服を買っていない気がする。


 今後は気を付けたほうがいいな。自分にそう言い聞かせる。


 今日のところは今着ている服のままでいこう。


 髪の毛は・・・短いだし、寝癖の心配もない。


 口は・・・歯を磨いてないような気がする。自分じゃ口が臭いかどうかはわからん。これは失算か。いや、さっきキスする時のセーミスちゃんは全然嫌がる素振りを見せないし、臭くはないはずだ。


 俺はセーミスちゃんに背を向いて、こっそり手のひらに息を吐いて、においを確認する。


 結果、オレンジジュースの爽やかな匂いしかしない。でも念のためにあとでちゃんと歯を磨こう。彼女のためにも、衛生を大事にしないと。


「よし!セーミスちゃん、あの料理屋もここから近いし、歩いて行こう!」


「はい!」


 二人は散歩の気分で歩き出す。彼女のほうから手を握ってきて、俺はそれを握り返す。


 数分もしないうちに、サイナーベルという店に到着。


 軽い気持ちで店に入った途端、俺は驚いた。


「「「お帰りなさいませご主人様、お嬢様!」」」


 突然現るメイド服を着た女の子たち。


 フリルいっぱいのスカートとニーソ。


 外国人じゃないのに髪の色バラバラ。


 それに俺のことをご主人様と呼んだ。


 あんまりにも現実離れな出来事に、俺は自分の耳と目を疑う。


 なんだここは。普通の料理屋ではなく、いわゆるメイド喫茶じゃないか。


 初デートの場所にしてはハードルが高すぎる。


 だってかわいい女の子たちに囲まれているこの状況を見ってみろ。隣にいる恋人にどう説明すればいい?「ごめんなさい俺は決してこういうので興奮する変態ではない信じてくれ」って言えばいいのか?いや、何を言っても見苦しい言い訳にしか聞こえない気がする。


 店の詳細情報をちゃんと確認しなかった俺にも非があるけど、ちゃんと店の名前に分かりやすくメイド喫茶って書けよ!


 なんだよサイナーベルって意味わかんねんだよ!ナベって書いてあるなら鍋料理出せよ!


 まあ俺はメイド喫茶でも全然OKだけど、問題はセーミスちゃんはどう思うだろうか。


 俺のこと「キモ!」って思わない?


「わあ~メイドさん~!しゃ、写真を撮ってもいいんですか?」


 ・・・セーミスちゃん?


「いいよー!別料金取るんだけどよろしいんですか?」


 金髪ツンテールのメイドさんは、にこにこしながら念を押す。


 恐る恐るとセーミスちゃんは聞き返す。


「えっと、いくら掛かるんですか?」


「うんとね、お嬢様は初めて見る顔ね。まあ、お嬢様もなかなか可愛いし、今回だけ無料ということで手を打つよ」


「いいの?あ、ありがとう!」


「ご主人様はこっちの席で少々お待ちくださいね」


 俺はもう一人のメイドさんに席まで誘導された。


「はい!笑顔でぴーす!」


「ぴ、ぴーす!」


 カシャ!


 なんと、スマホを取り出してメイドさんとツーショート撮影している。抱っこに近いポーズ。ノリノリじゃん。


 俺は胸を撫で下ろした。


 セーミスちゃんも全然OKでした。めでたしめでたし。


 気さくな金髪メイドは写真を撮り終えてから、俺のほうに顔を向けた。


「ご主人様も撮りたいんですか?」


 いたずらぽく、ウィンクをしてくる。


「俺は結構だ。それよりなんかおすすめの料理はないか?」


「当店はこれがおすすめかな」


 メニューを取り出し、料理名に指さしながら俺に見せる。


 なんと、「天獄の輝き、贖罪のオムライス」ってかわいい丸文字で書いてある。


 意味わからない。おそらく普通のオムライスだ。値段はちょうとだけ高い気もするけど、もし評判通り味が良ければそのくらいは別に構わない。


「えっと、じゃあこれを二つ頼むよ。セーミスちゃんもこれでいいよね?」


 こくこくするセーミスちゃん。


「はいはいー、了解!オムライス二つね。飲み物は?こっちがおすすめよ」


 なになに。閃光の堕天使、幻の牛乳コーヒー。普通に書けばいいのに。


「え、じゃあこれも二つで」


「はい、注文いただきましたー。少々お待ちくださいね~」


 スキップしながら厨房のほうに消えるメイドさん。


 これでようやく落ち着いてセーミスちゃんと会話できる。


「セーミスちゃん、なんかごめんな。俺は別にメイド目当てで来たわけではない」


「大丈夫ですよ。カイン君も男ですし、こういうのに興味あるのは自然のことですし」


「いや、俺は別にそんな」


「メイド服ってかわいいんですよね」


「それはまあ、そうだろうけど」


「わたしもメイド服に着替えたら、カイン君は喜んでくれるかな?」


「それはもちろんだけども!是非セーミスちゃんのメイド姿を拝みたい!」


「店の人にお願いしたら、服を貸してくれないかな?」


「それは、セーミスちゃんがここでバイトしない限りは駄目だと思うよ」


「じゃあわたしもここでバイトしようかな~」


「え、マジ?」


「うん。カイン君はどう思う?」


「セーミスちゃんがバイトしたいなら・・・だけど、たとえ演技でも、セーミスちゃんが他の男をご主人様って呼ぶのは、さすがに抵抗感があるな」


「そうだった・・・ごめん、わたし、自分のことばかりで、カイン君の気持ちも知らずに」


「いや、セーミスちゃんがやりたいなら俺は反対しないけど・・・」


 まずいな。この話題から離れよう。


 ちょうどいいタイミングで、メイドさんがこっちに来た。


「牛乳コーヒー、お待たせしましたにゃー」


 青髪ストレイトで猫耳をつけたメイドさんがコーヒーを二つテーブルに並べてから、棒らしきものをカップに入れる。


「混ぜ混ぜしますにゃー。おいしくなぁれ♪おいしくなぁれ♪」


 俺はどうしていいかわからず、とりあえず混ぜ終わるまで待つ。


「はい、ごゆっくりお召し上げれにゃー」


 そう言っていなくなる猫耳メイド。この子の後ろ姿を見ると、どういう理屈かは知らないけど、短いスカートの下から覗く偽物の尻尾は、まるで本物のようにゆらゆらと振っていた。


 それを見ているうちに、俺はなぜか「あのスカートの中はどうなっているのだろう?」って純粋に学術的な疑問を思い始めた。


「カイン君、まさかそんなことを考えているなんて。わたしという彼女がいながら、他の女性のアソコに興味があるんだ・・・」


 そしてセーミスちゃんはなぜか嫉妬したかのように頬を膨らむ。


 また能力で俺の心を読んだか?やばい、早くあれが純粋に学術的な疑問であることを弁解しないと!


「それは誤解だ!セーミスちゃんは今とんでもない誤解をしている!」


「ふーん?今のは聞き間違いなはずがありません。カイン君には、本当に失望しましたよ」


 え、まさか?怒ってるの?激おこ?


「カイン君は大人だし、そんなことに興味を持つのは、わたしも知っています。でも、わたしではなく、ほかの子に欲情するのは、いけませんよね」


 い、いやだ、セーミスちゃんがなんか怖い表情をしている!俺が浮気してるだと思ってるに違いない!


「ち、違うんだ、セーミスちゃん!話せばわかるから・・・」


「カイン君は少し黙ってて!」


「・・・!!!」


「カイン君、ごめんね。急に怒り出して。でも、それはカイン君が悪いんだよ?カイン君、浮気は絶対ダメだよ。わたしが悲しむよ。でも、カイン君がどうしても欲を抑えきれず、女の子のパンツが見たいなら、他の子のではなく、わたしのパンツを、見て。どうしても欲情したいなら、私だけに、して」


「え?」


 セーミスちゃんがおもむろに自分のスカートの端を掴む。そしてゆっくりと持ち上げて、黒いタイツに包まれた太ももを露出させる。パンツの形がくっきりと半透明のタイツの裏から浮き上がる。


 俺はゴクリと唾液を飲み込み、彼女の行為を黙って見守る。


 幸いなことに、今の席は壁傍、俺の方向からしか彼女の正面を見れない。


 そして、彼女は左手でスカートを持ち、腰を浮かせて、右手でタイツを下す。


 薄い水色のパンツ。丸見えだ。よっしゃ!って叫びたくなる。


 見えるのはほんの一瞬だけど、その絶景をしっかりと網膜に刻む。


 そして、サービスタイムはあっさりと終る。


 非情なことに、下されたスカートが俺の視線を拒む。


「はい、おしまい!カイン君、ちゃんと見えたんですよね?」


「えっと、それは・・・」


「ちゃんと答えなさい」


「はい。見えました。すごくかわいいパンツでした」


「そ、そうなんだ。へー。じゃあ、欲情したの?」


「いや、あんまりにも一瞬でしたから、正直いまいち興奮できない」


 って、俺は何を言ってる。これじゃただの変態だ。でも普段と違う感じのセーミスちゃんの圧迫感に、俺の意志はあっさりと折れていた。


「ふーん?じゃあ、もっと見たいの?」


 悪魔的な笑顔を見せるセーミスちゃん。


「はい・・・すごく、見たいです・・・」


「じゃ、じゃあ、すこしだけの間なら・・・お見せしますね」


 ゴックリ。わくわく。ドキドキ。


 だが、その時に。


「オムライスお待たせしましたにゃー」


 ええい!猫耳メイドが邪魔だ!消えろ!


 セーミスちゃんは慌てて座りなおして、両手でスカートをしっかりと抑えた。


 あああああああ!なんということでしょう!神に慈悲がないのか!なぜ俺を見捨てる!


「それでは、おいしくなる魔法を掛けるにゃー」


 ふざけるなよ!だいたいお前のあのふざけたしっぽのせいで、セーミスちゃんに誤解されてるんだ!人に迷惑ばかりかけやがって!マジで許さないからな!


「え?しっぽ?あ・・・あそこではなく、しっぽなの?や、やだ、わたしったら、とんでも勘違いをしてて・・・は、恥ずかしいよ・・・」


 セーミスちゃん、ついに真実にたどり着く。


 いつも俺の心を覗いてんだなこいつ。


 でもかわいいから許す。


「ごめんね、カイン君。わたし、なぜか怒ってて、お馬鹿さんみたいに、あなたのことが信じられなくて、彼女なのに、恋人なのに、信じられなくて・・・あんな破廉恥なことまでして、あなたの心を掴みたくて・・・これじゃわたし、ただの卑怯者だよ!」


「セーミスちゃんは深く考え過ぎだよ。俺は、俺のために怒るセーミスちゃんが大好きだ。セーミスちゃんは別に俺に危害を加えたわけでもないでしょう?むしろいいものを見せてくれてありがとうな」


「カイン君・・・」


「だいたい悪いのは、この猫耳のせいだ」


「にゃにゃー!?ご主人様が何を言ってるのか全然わからないにゃー!!」


 それもそうだ。この猫耳メイドも別に悪いことをしたわけではない。


 一番悪いのはセーミスちゃんを混乱させる俺の不謹慎だった。


 まあ、誤解がとけて何よりだ。


 とりあえず、あの奇跡の一瞬に感謝の気持ちをこめて、食事をするか。

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