第2話 俺を選んだ理由

 素直に言う。俺はセーミスちゃんの事がとても気になるのだ。


 悪魔かどうかは関係なく、純粋に女の子としての彼女をもっと知りたい気持ちはある。


 彼女とお近づきになりたい、彼女の力になりたい。


 ただし解せない点が一つ。


「なぜ俺なんだ?他に強そうなやつはいくらでもいる。なのに俺を選んだ理由は?」


 それがどうしても分からない。


 まさか俺に気があるとかじゃないだろう。あんないい子が俺を好きになる理由を1ミリも思いつかない。


 そんな俺の質問に、彼女は少し考えてから答えた。


「わたしはずっと、あなたのような方を探していました。コンビニに入る他の方は、みんな凄く疲れた顔をしていました。やっぱり大人はみんな辛いって思いました。若い学生さんたちは溢れ出るほどの活力がありますが、未成年の方に手を出すわけにはいかないんです。大学生ならいいとも思っていたんですが、何人か聞いてみたら、みんな彼女がいたと答えた。わたしのような若い女がそばにいると、彼女さんに申し訳無いと思って・・・そんな時にあなたがわたしの目の前に現れました。爽やかな顔をしてて、目が生き生きしてて、命の輝きが他の大人と全然違くて・・・わたしの注意を引く理由としては、充分でした」


 なるほど、納得。


 確かに俺は辞職してからほぼ毎日10時間以上睡眠をとっていた。そこそこ貯金がある。好きな食べ物も食べ放題、ゲームも遊び放題、疲れたらすぐ横になる、眠いと感じた場合は速攻布団に突入、彼女どころか友達すらないが一人でいるのもそんなに悪くない。よく考えたらストレスと無縁なニート生活だ。英気が養わるのも当然といえば当然か。


 ただし、そんな虫のいい生活はいつまでも続くわけがない。田舎にいる両親も「働け」の電話をしつこく掛けてくる。余裕な態度を取れるのも貯金がある今のうちだ。


 ちょうどいい頃にセーミスちゃんが俺の助けを求めてきた。見返りにお金を要求するのも自然だろう。


 俺は自分の考えをそのまま言い出した。


「わかった。本当に俺でいいなら、協力してあげよう。ただし、条件付きだ」


「どういう条件ですか?」


「なーに、簡単な事だ。俺と、付き合えばいいのだ!!」


 あれ?


「え?」


 ほら見ろ、彼女も俺のふざけた言葉に驚いてるじゃないか。まったく俺は何をいってるんだ。


「すまん、今のは言い間違いだ。俺が本当に言いたいのは、俺の彼女になれっとの事だ」


 あれれ?


 自分でもわけが分からん。言葉と思考がズレてる。


「はい、ふつつか者ですが、よろしくおねがいします」


「いや違うんだ!俺は、決してそんなつもりじゃ・・・って、今なんか言った?」


「え?違うんですか?ごめんなさい、わたしなんか勘違いしてて・・・」


 そう言いながらなんかホッとしたような顔をするセーミスちゃん。


「勘違いじゃない!!俺はお前の事が好きなんだ!!」


 俺はついに冷静さを失った。せっかくセーミスちゃんが俺の告白にOKを出してくれたのに、このチャンスを逃すわけにはいかない!


「え、あ、はい。わたしも、あなたの、ことが、す、す、す、好き、です。実は、これが、あ、あなたを、選んだ、本当の理由です」


 急にたどたどしい喋り方になったセーミスちゃん。


 顔真っ赤。


 いや、俺の顔もなんか熱い。


 それはきっとこの天気のせい、ではない。


 恥ずかしさと予想外の喜びで、顔が熱くなる。


 しばらく無言になる二人。


 彼女が俺の言葉を待ってるようだ。


 真っ直ぐで、俺の目を見ていた。


 俺は必死で言葉を探す。


「本当に、いいのか?俺、クソニートだし、性格も乱暴だし、ど、童貞だし・・・」


 いや俺マジで何いってんだ。こんな事を言って何になるというのだ。


 くそ、なんでもっとうまく喋れないのか。


 本当にどうしようもないクズじゃないか。


「そんなに自分を悪く言わないでください。わたしに協力をする時点でニートじゃなくなるし、少し乱暴でもわたしが耐えればいいの事ですし、それに、ど、どうてい、というのは、決して、悪い事ではないと思います・・・わ、わたしだって、しょ、しょじょですし・・・」


 ますます赤くなるセーミスちゃん。


 一生懸命に俺をカバーする姿に、俺は思わず胸をときめいてしまった。


「あ、ありがとう。お世辞でも嬉しいよ」


「お世辞ではありません、わたしは本当のことを言っただけです」


「そ、そうか。うん、そうだな。はは」


 俺は嬉しくて涙が出そうた。


 恥ずかしそうで嬉しそうに微笑む彼女を見ながら、俺は思った。


 こんないい子が俺の彼女なんだ。


 魔法だけじゃなく、奇跡も現実にあるのだ。


 彼女を大事にするのだ。


 何があっても、決して彼女を裏切らない。


 浮気は絶対しない。


 せっかく両思いになった。


 この恋を誰にも邪魔させない。


 もし神が駄目だとぬかすなら、神を殺す。


 俺の人生を賭けても彼女を幸せにしてみせる。


 俺は心の中でそう誓った。

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