第11話―カモイなげし7―

まだ夢世界にいられる時間は残っていたが現実の方では時間切れだ。

アナザーネームは酷似なもう一つの夢世界で特定されないように名乗る名前だ。専門的な用語として使ってはいるが勝手にそう呼んでいるだけだ。

夢世界が日が沈んでいるなら現実も同じく星空がきらめく夜。

プリムローズこと鬼川を家の近くまで見送る。


「もう、近いから」


「そうか。これを言うと警戒されるけど家まで送ろうか?

もし不審な奴がいたら大変だろう」


そう提案をしたが鬼川は、かぶり振って断る。


「平気……本当にすぐ近くだし……

そこまてましくれるの申し訳ない。

それに……夜道で狙うなんて、んっ、

海外の話」


長く喋るのが苦手なのか言葉の途中で止めて喋って心配無用だと言う。

たしかに狙われるほど危険になる可能性は高くないだろう。それほど

可愛くないし見向きもしないだろう。


「だがなぁ。

どこか危なかっしいと言うのか、油断しすぎと言うのか」


「ここは日本。

早々そんな危険なことが余程のことがないと起きないもの。

比較的に……安全だから平和」


「そ、そうか。ならいいけどよ」


そこまで強く言われてら女性じゃないから気持ちは100%出来ないから否定は出来ずに認めざるめないが、どこか危うげな所がある。

スキだらけな萩野吟だって、夜道の一人は対策しているのだ。目の前のコイツは護身になる物からの自信によるものか、ただの楽観視しているかは、

よく分からん奴だ。

そんな出来事があって翌日。


「おはよーう。ねぇ、ねぇ一緒に登校しようよ」


通学路をぼんやりと坂を登っていると背後から萩野吟の声が空を響き渡る。

本当、朝から元気すぎる。

長く伸ばしたサラサラ黒髪と屈託のい笑顔は、それだけで周囲の視線を集めさせるたけの魅力がある。


「ああ、おはよう吟。ぼっちだから別に構わないけど、こんな俺なんかと居ていいのか?」


「んっ?居ていいのかって何を?」


「これだけ俺の前で、はしゃぐこと。

親しく声を掛けるのは嬉しいが誤解されて困るだろう。邪推されて」


こう言えば誰でも分かると思ったが、吟は何を言っているのだろうかと手でアゴに触れて言葉の意図がなにかを

反芻する。


「ふんっ?……あっ!えぇぇ!?」


どうやら理解したようだ。

男女二人が通学路を並んで歩けばカップル登校であると解釈される。

完全なる平々凡々である俺が注目度を集めても人の噂75日ていどで済む。

しかし他校にも人気がある萩野吟だとすれば例外になる。告白を断ってきた

萩野吟という理想的で清楚系の

美少女だ。

ただの女の子は容姿端麗で男の子なら眉目秀麗でも他校まで名前が広まらない。外見だけではなく内面まで

キレイなのだ。


「分かったら少し離れて行くぞ」


「……う、ううん。もう覚悟した。

どう思われてもいい!こ、ここ恋人だって勘違いしても気になんた

しないから」


目は落ち着かず、頬は蒸発するように赤くなっている。

両手を胸の前にガッツポーズをして勇ましく気概を発揮しても仕方ないんだが、吟らしい反応だった。


「あっ、ちょっと待って。おじいちゃんが苦しそうにしている。

ごめんねぇ先に学校に行っていて」


返事をする前に走る。吟の視線と向かう道を目で追うとフェンスに指を通しつかんで激しく呼吸をする年配の男性がいた。

素人からの知識で判断するなら血栓が原因で肺に酸素が届いていないか他はがんや間質性肺炎かもしれない。

ここは萩野吟に任せて普通にすぎない俺は一人で学校に向かうとするか。


「大丈夫ですか?おじいちゃん」


「はぁ…はぁ……」


背中を優しく丁寧さする。けど改善するはずがない。


「………ハァー」


まだ萩野吟は高校生だ。こういう場合に適切な対応や処置など見込めるはずがない。


「………」


だとするなら救急車を呼ばないと。もし知らない土地にいた場合だと自動販売機か電柱に場所を書かれているが今回は土地勘のある場所。

俺はスマホで素早く場所を伝えると切る。これで遅刻は確定だ。

どうせ単位が減っても痛くも痒くもないデメリットは怒られる程度。


じいさん息が苦しいなら楽な姿勢になってくれ、座るとかなんでもいい、それで多少はなんとかなるはずだ。

次に、口をすぼんで呼吸または腹式呼吸をして欲しい。ゆっくりだ…そう慌てずにゆっくりと繰り返してくれ」


路上であぐらを組んで座っているが緊急事態なので仕方ない。

まさか暇つぶしに読んでいた治療法が対処法が役に立つとは思いもしなかった。年配の男性は楽になったのか

激しく呼吸はなくなり落ち着いてきている。


「勝手に救急車を呼んでしまった。

しばらくそこで待っていてくれ」


「そこまでしてくれて助かるよ。

今どきの若者にしては珍しく心優しいんじゃなあカップルさんや。

ありがとう」


「いえ、俺たちじゃなくても誰かが助けていますよ」


自分でそう口にしたがそれは偽善だなと俺は自らの言葉に否定的になる。


(誰かがやってくれるなんて、そうであってほしい自分の希望だけじゃないか。それなら師匠が助かって

いたんだ……)


「かか、カップル!?やっぱりそう見えちゃうんだねぇ。えっへへ」


思ったよりも元気な爺さんの姿に吟は安堵したのかカップルという単語で過剰に反応を示した。

命の別状がないとはいえ少し不謹慎じゃないかなと思ったが年配の男性も

面白いものが見れたと愉快に笑って

いるし別にいいかと俺は半ば投げやりにそう思うのであった。

思ったよりも早く救急車が駆けつけてきて後は、お任せて俺と吟は学校へ向かう。もう遅刻は揺るぎない事実の

時間帯なので焦らずにゆっくりと

談笑して行くのであった。

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