第10話―カモイなげし6―
「変身って…特別な資格や選ばれた能力……みたいな、あったりするの?」
明るめなピンクを揺らす。
そんな派手な色をしたストレートの髪をした誰からでも息を忘れるような
可愛らしい女の子が首を傾げる。
(ここでの理想の姿に変わってから変わりすぎだろ。
前は感情が死滅したような表情。
だけど目の前にいる鬼川は死んだような顔じゃなく顔の色が読みやすい)
俺がやや戸惑っていると何を
驚いているのか自覚しておらず怪訝の色を濃くなる。
この世界での変身は、ただ容姿や声だけではなく表情筋にまで変えるなにかがあるようだ。しかし活発そうな顔をしても声調は静謐な海上と変わらない淡々なまま。
「特別な資格?ああ、質問の意図を確認させてもらうと変身するには選ばれた能力とか才能があるのか
聞きたいんだな?」
「そう。不思議と、気持ちは、はずむ。なにか、幸福感が、私の中で、
満ちている」
自分の胸を右手で触れて不安気な表情をして語る。
やっぱり不気味だ。愛想を振りまいているのに声は老成しているのか悠長で感情的な高低がない。
それと言葉の端々からに、おそらく本人には目的とかなく無意味に言葉を止めたりして間を置く必要があるのかと
追及をしたいが親しくない相手だ。
ここは我慢をしよう。
そんなことよりも好奇心をそそぐようなことを鬼川は言った。
「その満ちていく幸福感というのは、変身前と後では違うのか?」
「分からない」
「……」
「でも心が軽くなった」
「……」
「そんな、気がする」
「…………そうか。
わるいが、その状態に関しては力になれそうに無い。初めて聞いたからな、そんなのは」
俺がそう返事をすると、小さく不安が溜まった息を吐いた。そして微笑んで会釈をする。
感情が顔に出ると、どんな気持ちなのか分かるものなんだな。
明るい顔を眺めていたら考察。
なにが、きっかけで表情を出せなくなったのか?いや、その前に夢世界での変身は憧れの理想像で為せるものだ。
だとれば、それは表情筋にまで干渉させることが可能かもしれない。
「いつか、それらしい仮説を考ええおくから今は楽しまないか?
俺たちがいるのは夢世界、ネバーランドような場所なんだからなぁ」
「うーん…うん。そうだね。楽しむ」
空が暗くなり始めている一軒家の前でニコッと満面な笑みをする鬼川。
そんな眩しい笑顔で俺はこう思った。
コイツ一体だれなんだと。
まずは鬼川がしたいことを付き合うことにした。それは空を水平で移動することであった。
どうやら空を飛びたいようだ。
いくらか俺は、独りよがりな論理的な説明をしないよう気をつけて説明を行う。それからは実践と助言。
空の浮遊する練習を始めてから時間が経っている。
陽が翌日まで沈むと月が顔を出して世界を静謐で包み込む。
「そうだ。あまり
それが移動手段だ」
「そう、簡単に言っても…あっ!」
屋根の高さまで上昇してから、その高さでキープしたまま直進方向する。
上下と左右にぶれたりもあったが、なんとか飛べるようにイメージする。
付ききりで練習する鬼川は、想像力が足りず、そのまま下に落ちていく。
「うわぁ!あぶねぇ、平気か鬼川?」
「うん、なんとか」
俺は上方から見えない力で加速させて鬼川の襟で後ろを無作法に首根っこをつかむ。
こうすると、まるでクレーンゲームでのキャッチャーになったみたいだ。
「上達が早いなぁ。
これなら手助けしなくても行けるぞ。
それじゃあ手を離すぞ」
「了解した…次は、一人で」
振り返って声と表情が一致しないでアンバランスに威勢よく答える。
これを繰り返していけばイメージが自然と固まっていく。
要するに、空を飛ぼうと意識して飛行するよりも無意識レベルでの飛行での方がより飛べるようになる。
邪魔にならないよう少し間を作ってから並んで浜松市の空を流れんでいく。
時折、空を仰ぐと星が綺麗だなと感嘆の息を吐いていた。
「やった。ようやく真っ直ぐ飛べれるようになった」
「それは良かったなぁ。
少しは声を弾ませても良いと思うんだが…。次に、夢世界での名前を
考えよう」
「名前……それってアイテルとか?個人情報の本当の名前とかじゃなく
ログインみたいなのが必要ってこと」
おっと意外にも鋭い。隣で飛んでいてもイメージは崩せずに鬼川は上手く飛んでいる。
お世辞で褒めてはいたが、どうやら上達するのが早いようだ。しかし、夢世界でどれだけ技術やスキルなど 磨いても現実で活用方法は無いと思う。
それを言ったら無粋になるから他のことを考えるのは、これぐらいにする。
「アカウント名か、なかなか
分かりやすい表現をする。
見た目は変わっても万が一に名前を特定されたら何かあるか分からないし誰かが聞いたら危険。
だからこそのもう一つの名前。
アナザーネームが必要だ」
アカウント名と言っていたが、ここを管理している誰かがは分からないが
乗っ取られるとこや情報を盗まれる心配はない。
説明をして、おもむろに相槌を打っていた鬼川。最後まで聞いてからなにかを熟考していた。そして視線を上げると真面目な顔で言う。
「決めた。わたしの夢世界でのアナザーネームを」
「どんな名前だ?」
のんびりとした性格とは思えない決断の速さだった。
どんな名にしたか尋ねる。
「名前…じゃあ素敵な名前に……
したい。
素敵な…名前は……決めた。
プリムローズ・キャンサー」
ギャップの笑顔を自信があふれた雰囲気で向けた鬼川ことプリムローズ・キャンサーであった。
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