第6話―カモイなげし2―

「はぁ…はぁ…。俺は…インドアなんだぞ。普通に……逃げ、切ったぞ」


普段は授業中でしか通らない階段の踊り場。

校内で放たれた猛獣から逃げる朝ランから逃げ切った俺は手に膝をついて息せき切っていた。


(教師が入る時間のギリギリまで時間を潰しておくか。戻ったときには怒りが収まっているはずだからなぁ)


オオカミの猛獣モード覚醒ワードを言わなけば基本的には優しい奴だ。背が小さいと言わなければだが。

俺は階段を上がって曲がり角の右を通って屋上に向かうことにした。別棟から渡り廊下をゆっくりと歩を進んで窓の風景でも眺めようと一瞥いちべつしていると見覚えがある人がいた。


(あの暗そうな雰囲気と姿は、鬼川?)


まさか同じ学校に通っているのか!?

俺は一瞬だけ足を止めて窓越しから見下ろして凝視していたが視線を前方に戻す。


(いや、まさかなぁ。鬼川なわけ無い。だとしても夢世界で助けただけで、これ以上の干渉は必要ないだろうし)


そのあと屋上に向かった俺は屋上にある突き出した小屋の上にハシゴで登ると仰向けになる。普段は、塔屋とうやを使わないが気が向いたときに訪れて、こうして空をただただ眺める。

頃合いだと思った体感時計に従いながら教室に戻るが、どうやら遅くなったらしく教諭に怒られてしまった。

こんかことならウルフに土下座でもして謝るべきだったか。

まぁ、絶対にしないが。

淡々とした温度と風が時間と共に流れていく。一日分のカリキュラムが終了を報せるチャイムが鳴ると一足先に動くやつがいる。


「じゃあな孝和」


放課後、すぐカバンに教科書を詰め込んで支度の準備をしていたウルフ。立ち上がって出入り口に向かう。


「ああ、また明日シスコン野郎。妹に今日もよろしく伝えてくれ」


「覚えていた伝えておく」


ウルフこと牧野忠訓は俺以外の友達と話した姿があまり見かけていない。

浮いているとか、孤高を愛する気高き少年などではなく一人の妹のために優先しまいがちで、なかなか友達が出来ないのだ。

そうなれば俺は放課後一人で帰宅することになる。もしかしなくとも俺が、ぼっちなのはウルフが原因では?

どこにもいる普通の高校生である俺は帰宅しても誰も俺なんかのような虫に等しい人を声を掛けようするはずがない。

夕日が照らされる昇降口で靴を履き替えようと下駄箱を開けたら靴の上にピンクのリボン付き手紙が置かれていた。

どうして手紙にリボンをつけるのか甚だ疑問だったが俺が取ったリアクションは辺りを見渡す。

…よし、今どきレアなラブレターに驚いている連中はいるが見られていない。

次は中身を見るか見ないかで悩んだが確認することにした。案の定と言うのか俺に送った手紙だった。もしかすると勘違いではないかと期待・・していたが…先週はたくさん頂いた。

宛名が書かれていないため誰かが分からないが指名場所を記されている。


「ハァー、また断らないといけないのか」


無視するわけにはいかずに俺は、指名された場所へ赴くことにした。告白の返事は一択しかない。指名された場所は体育館の裏だ。この展開なら静寂に包まれた二人とイメージされる人がいるかもしれないが、よく考えて欲しい。

放課後の体育館での裏に静寂なんてあるのかと?学校によってはあるかもしれないが運動部の皆さんが掛け声や雑談する人もいる。


「す、好きです。わたしと、付き合ってくれませんか?」


「……わるい。付き合うことは出来ない」


ラブレター送った相手も体育館の裏が想像したのと違って落ち着かない素振りをしていたが俺が現れると勇気を振り絞って告白をした。

断るのは何度目になることか。なんとなく真っ直ぐ見られず視線を逸して頭の後ろを掻く。


「…そう、ですか……」


「なんて言えばいいのか…容姿やラブレターは良かったから他の人ならドキッとさせるはずだぞ」


「はい。一つお聞きしていいですか?」


「ああ、いいぞ」


「やっぱり藤原くんの好きな人ってテニス部の萩野はぎのですか?」


呼び捨てことは萩野の知り合いか?いや単純に同級生とか?

深く考えても詮無きだな。言葉を慎重に選ばないと、振った相手からの言葉には重く、深くに心を傷つきやすいのだから。


「いや、今はただの友達だ」


模範的な回答は知らない。そうとしか答えれず相手は顔を伏せる。


「そうなんですね…ごめんなさい」


そう言い出すと相手は反転して走っていく。冷静を欠いてしまい、やや支離滅裂さがある言葉。

現実はクソゲーだ。告白は、ゲームの中だけで十分なのに…。

断った俺まで、気持ちが鉛のように重たくなり帰路に就く。生活道路の右端に歩いていると後ろから誰かが走ってくる。誰かは推測していふ。足音が迫って俺は振り向かず接近されていることを気づいていないふりをする。


「後ろからドン。えへへカゲみーつけた!どーしたの?なんだか暗そうにしていたけど。そこもかわいいんだけどね」


後ろから勢いよく飛びついたのは女の子。豊満なバストが背中に当たっているし、耳元で声を掛けるは、後ろから左の肩から顔を乗せて横顔を見るはで

過剰と言っていいほどの距離感。


「とりあえず離れてくれないか?」


「えっ…う、うん。わかった」


素直に聞いてくれたのは、いいけど振り向くと著しく落ち込んでいる。

ああー!天然のくせに、すぐ悪い意味の方向で受け取る。別に怒ってはいないのに。

コイツは、中学で知り合った友達の

萩野吟はぎのぎん。丁寧に手入れされた艷やかな黒のロングストレートは風に舞い、星のごとく輝きを放つ大きな瞳、陶器のように白い肌。

百人に聞けば百人が美少女と認めるであろう容貌とスタイル。


「責めていない。もう少し距離を考えてほしいだけだ。普通の高校生には可愛い女の子にハグされて平常心にはいられないからなぁ」


「そう言うけどカゲ平常心じゃないの?ツッコミ満載だから省くけど

カゲは普通の高校生からかけ離れた精神しているし」


「いや、普通だよ。俺だってぎんみたいな美少女と話をするだけで心が踊っているんだから」


「そ、そうなの!?えっへへ、そう告白されたら照れるよ。人が見ているのに熱烈すぎるよカゲ」


「そこまで言っていないし落ち着け吟」


俺にだけ感情の起伏が激しいのが萩野吟だ。少し前に、遊びを誘われた女の子と一緒に居たのを吟に目撃されてしまい問い詰められたことがある。

そのときはグイグイと来られたから付き合っただけと説明したが吟の疑いは晴れずに他の女の子と付き合わないでと泣いてお願いされた。

これだけでと俺は思ったが、そこまで泣いてしまうと安易に他の女の子と一緒に行動が出来ない。なので告白の返事はすべてノーで返しているし、試しに付き合ってから判断など提案されてもノーと答えるように決めた。


「そう言えばテニスは?」


すっかり元気になった清楚系の天真爛漫と見せかけて中身は思い込みが激しい萩野吟は隣に立つと歩き始める。


「足を少し怪我してしまってね…えへへ。ドジなのは自覚しているけど注意散漫にどうしてもなってしまうんだよね」


「おいおい、気をつけろよ。…歩いていたくないか?」


「うん、少し痛いけど普通に歩けるよ……あっ、痛い!すごく痛いよ!

これは、お姫様だっこしてもらわないと歩けないかな?」


足を抑え始めて何かを叫んでいるかがんでいる吟を横目に俺は嘆息。


「はぁー、そうか。誰かにお姫様だっこされるんだな」


「ま、待ってよ!いたたっ」


振り返ると今度は演技ではなく本当に足を痛そうにしている。コイツ…追いかけようとして痛みが襲ったのだろう。

ポンコツにもほどがある。お姫様だっこは出来ない。基本的にインドア派だから長時間も抱えていれば腕の負担は大きい。

そうなれば俺が譲渡が出来る条件は、

吟に近づいて背を向けて左膝を地面につけて屈む。


「お姫様だっこ出来ないが、背負ってやる」


「えーと、あの冗談で本当にお願いしたわけじゃないんだけど…おんぶされるのは」


はぁ!?冗談って…顔だけ振り返って肩越しから吟の白い頬が赤く染まり照れるのは一目瞭然。


「そうか。肩を貸すだけでいいか」


「い、イヤとは言っていないよ。

歩くだけでもグラウンド30周されるぐらいツライの」


そう返すんだなと俺は読んでいた。

吟の扱いには慣れてはいるものの甘えたり落ち込んだりのゼロか全力しか見ていない。付き合う側からすれば疲れるし、本人には決して口にはしないが

楽しかったもする。

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