第5話―カモイなげし―
ずいぶん長く眠った気がした。
まるで熱に浮かされて苦しんでいたのが次の日には治っていたような気分爽快なものだった。
(安全な場所へ避難したとはいえ居続けられる時間はフォール前の俺の方がどうしても短い。
俺がいない間に暴漢がまた襲われたら…いや大丈夫だ。撃退した奴等が夢世界に飛び込むには早くても半時間ほど必要だ。もし他の仲間に連絡を取れると仮定しても浜松市内を隅々まで探すのは現実的ではないし、そこまでの執念やこだわりがあるはすがない。
ある家に隠れるようにキツく伝えた。だからこそ、これ以上の心配は
無事に済んだという明確な答えがないと安心は出来ない。空で飛行中にたまたま目撃して救っただけの初対面。
そこまで気遣ってしまうのは、どこか捨て猫を彷彿させるものがある。
…いや、それこそ杞憂だな。意味のなく悩みが浮かぶのを隅に追いやりながら俺は制服を着替えるのであった。
自室を出て洗面台の前面に立って髪を手で簡単に整える。あまり鏡に映る自分の容姿は好きではない。
主観的での短所を挙げるなら、黒髪は短めの中では少し長い。目は草食動物みたいで気迫がない。
それに容姿を磨こうと思ってもいないので別にこれでいい。俺のような平凡な容姿で1分も整えようと熱心になるはすがなくリビングに進む。
「おはよう」
両親は共働きしている。息子の一人だけで高校生になってから経済的に追い込まれたことがない。いや、そこまで詳しくないけど両親が俺に心配しないように見せているだけかもしれない。
本人達に聞けば答えてくれるかもしれないが中学生に上がってからは話すのが拙くなった。いわゆる思春期という奴なのか、急に小学生のような無邪気に起きたことを包み隠さずに喋ることが出来なくなった。
そろそろ行こうと立ち上がり出ようとして背からテレビが流れる音に、今日の俺の運勢は良くないらしい。
基本的に、あの頃から運勢は悪い方なのだ。どうでもいい早く学校に行こう。
陽がまぶしく雲がない晴れ晴れとした通学路。学校が近づくにつれ同じ学校の生徒が増えていく。目的地が一緒なのだから至極当然なのだけど平日の毎日と、これが光景だと作業しているような感覚になる。他の生徒は楽しそうに談話しているから毎日が同じなんて鼻で笑うだろうが、ボッチ側からすれば毎日が同じ光景なのだ。
(…
静岡県の浜松市に住んでいる。
成績は普通で恋人いない歴は年齢になる。異世界転生でチートスキルを頂けないと活躍が出来ない。
なんだか悲しくなってきたなぁ…)
こんな自虐しても、良いことが一つもないのに…ネガティブにもほどがあるぞ俺よ。
では退屈極まりない教室へと入ろうか。わーぁ!教室だ、友達100人出来るかな?っと心の中で
自席に向かうけど誰も挨拶もされずに椅子を引いて腰を下ろす…これが、ホッチだ。
窓から射し込む光が影に落ちる。いや、誰かが俺の横に立っての影。視線を上げて横を覗くと…オオカミが俺を見下ろしていたのだった。
「まるで生きた死人だな。いや、いつもそんな顔をしていたか」
常にそんな顔している人が果たして存在するのか反論したくなる話の切り方をする。
「おーい、いきなり人を罵るのは非常識ではないかなウルフさんや。これでも絶好調なんだぞ……たぶん」
「それ絶好調じゃないだろ。根暗な発言だな…まぁ、いいけどよ。それよりも
ニヤつくわけもなく横に佇むオオカミ少年は淡々と言った。その意図がすぐに読めて俺は大きく嘆息する。
「へぇー、そうなのか。切り替えの早さがスゴいなぁ。それで、そのビッチの話題を振ったウルフ絶対に興味とかない話だろ?」
「そうだな全然どうでもいい話だな」
コイツ、どうして興味のない話題を振るのかな?俺も断然に興味も無いと分からないはずがないだろ。
腐れ縁と言うか幼稚園から知り合い小中高といつも同じ場所で通っている。気が置けない仲で唯一無二の友。幼馴染でもあるのだが俺としては女の子が幼馴染だったら、どれだけ良かったことか!常々そう思っている。
だって普通に幼馴染と聞けば思い浮かぶのは異性だろう、けど一般的な概念ではそうであっても辞書に記されている定義には異性なんて指していない。
「なぁ、幼馴染よ。俺たち他の友達まったくいないよなぁ」
「ん?そうだな、それがどうしたんだ」
「普通の高校生である俺は、なぜ友達イベント発生しないのかと原因を分析してみたんだ。そうして見えたことが分かった…怖いイケメンのウルフが原因だって」
「はぁ?俺が原因だって言うのか?」
腐れ縁の幼馴染ウルフは真面目な顔で相槌を打ちながら聞いていたものの次第に怪訝な顔、そして聞き終えた頃には
あっ、ちなみに国語がそこそこ得意な俺の豆知識なんだけど憮然の意味は怒りとかではなく失望、または呆然。
「そうだよ。今どき珍しい一匹オオカミ?だけ、古い表現をするならウルフはそんな印象だよ。男からは不良に関わらないよう自己防衛が働いて寄ってくるはずがなく、女子からすれば
高校生なのに小さくて一部の人には需要があって俺には振り向くはずがない。あーあ、これだからチビ野郎でイケメンを持つ友人は苦労するよ」
ウルフこと本名の
黒い髪はワイルドなウルフヘアー、その眼力は猛禽類と比喩したくなるほど鋭さがある。それに制服も着崩している。
平成後期から減少していた制服の着崩し。今どきブレザーのボタンを全部オープンにする奴はウルフしかいない。
そんな荒々しさがある雰囲気から愛称はウルフと呼ばれるようになった。
女子よりも小さいと定評がある牧野忠訓ことウルフは顔を伏せて肩を小刻みに震えている。なにかツボ入ったのかな?
「…おい、孝和。おまえ何って言った」
「へ?……も、もしかしなくても怒ってらっしゃる?」
やばい!なにが失言をしてしまて怒らせたのか思い当たり節がまったくないぞ。
高まっていく戦意と怒気を帯びた気配を察知した周囲の生徒は離れていく。
そして顔を上げると獲物をただ無慈悲に捕らえようとする狩人の目が俺に向く。
「小さいと言ったな…おまえ」
「あっ!」
短身であるウルフが最も気にしているのは背が小さいこと。ただコンプレックスである小さいと悪気なく言った程度では怒らない。
軽く睨まれはするが、ここまで激怒するなんて…リアルで命の危険を感じるなんて。
「た、確かに勢いで言ったけど小さ…短所をイジるつもりなんて無かったんだよ。ほら思い出してくれ」
「それにチビ野郎と暴言を吐いたな。それじゃあ孝和、最後の言葉はそれでいいか?」
両手を胸の前に上げるとウルフは指を一本一本に折って鳴らす。指ポキポキ嫌だなぁ…恐怖しかないんだけど。
「指のポキポキ悪いらしいぞ」
「そうだな。なら、これが最後にする」
指クラッキングは今日で最後にするようです。やったねぇ!でも制裁を受けることには変わりなさそうだ。マジか…。
「くっ。…あっ!あそこに可愛いウルフの妹が」
「なに!?」
(よし、今のうちに…逃げる!)
ウルフが必ず振り向くであろう言葉で一時的に視線を逸している間に俺は逃走を開始する。素早く立ち上がって椅子が転びそうになるも教室の前の出入り口に俺は全力で走る。
「…騙しやがったなぁ!」
うおっ!?よ、余計に怒らせてしまったか…短気すぎないかな。逃走劇は廊下になると速度を減速しないといけなくなる。教室は一つのたまり場とするなら廊下は往来が途絶えない時間帯での大きな
つまり…狭い廊下を走りながら談笑中やながらスマホしている注意散漫な生徒を避けながら逃げないといけない。
「待ちやがれえぇぇぇ!!」
「な、なにっ…ひやぁ!」
「オオカミが走っているぞ!?」
「どうして番犬が走っているんだ?」
ウルフが吠えてくれるおかげで端に避難として真ん中の道が出来る。
逃げている側の俺としては周囲の悲鳴や驚きの声からして本当にウルフに追われているんじゃないなか思えてならないのだけど。
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