第4話―夢を抱く者アイテル其の4 ―

この世界での死というものは唯一の命が消えていくような死ではない。

どういった現象にあるか定かではないが視認性での情報を頼るなら粒子によるもので肉体を形成しているのでは、ないかと考えている。付属する魂があるかもこれも定かでない憶測を並べるなら宿っていると思う。俺が知る限りには魂という箇所がどこにあるのか分からない。もし分かっていれば、そこを負傷すればただでは、すまないからだ。


(ここで死んでも現実に還るだけなんだ…頭で分かっていても凶器で戦うのは…なんて後味が悪いものなんだ)


魂の損傷がなく無事に帰還する。それは、まるで今は珍しくもないラノベで頻繁に取り扱う設定みたいだ。ゲームの世界に五感と思考をフルシンクロさせて自由に操作が可能としVRMMO。

けど…ここは管理者という絶対的な均衡と秩序を保とうとする存在はいない。

悪質な人を強制的に追い出すアカウント凍結という措置がなければ親切なシステムも用意されてもいない。理想的と思われた世界は、そんな無法地帯であることを知ったのは幼かったときだ。これがVRMMOだとすれば破綻しており頭がおかしく需給がないに等しいと思う。


「あ、あの!」


撃退すると彼女は、後ろから声を掛ける。けど俺には警戒心を僅かに抱いている。


「助けてくれて…ありがとうございます」


顔だけ振り返る。彼女は、おもむろに頭を下げてお礼を述べる。


「怪我はないか?」


首肯して怪我していないと動作で応える。


「そうか。あんたは初めてなのか?」


「初めて?……何を」


「この世界に訪れるのが初めてなのか…いや、感覚的には突然ここに飛ばされたとするのが伝わるか」


「飛ばされたと思う。…ここは、どこなの?私が知る世界と何か違う……」


魔法や超常現象が扱えて俺たち以外はいない交差点に異変を感じている。はずなのだが表情が乏しいのか顔に出ていない。


「やはりフォールか…ここは夢世界。ここは日本にある浜松市であって違う。もう一つの世界に、あんたは立っているんだ。俺が勝手に夢世界と呼んでいるが異世界でもあるしゲームの世界かもしれない謎しかないもう一つの世界だ」


「ふーん……それで、何が違うの?」


「何が、か……先まで交戦を見ていたと思うが空を飛べたり魔法を使える」


「それ…私も出来る?」


「可能だ。誰でも、必ず、どんな奴でも飛行するのは出来る」


「……おぉー」


感情の起伏が薄いが、もしかして衝撃を受けて感嘆しているのか?喜怒哀楽が表情になかなか現れないというのは接する側は何を話せればいいのか困る。


「やってみる」


そう宣言すると彼女は腰をかがめると、跳躍。バネのように使って地面を蹴った彼女は空を飛んだ。されど進む方向まで考えていなかったのか手足をバタバタと抵抗するように激しく振る。空をただ浮いている姿は雲のようだった。


「わわ…」


(助けは必要そうだな)


このままでは海流に流されるように空中で風が吹くまま流されるだろう。俺は地面を蹴ると空へと飛んで彼女に突き進んで右手首を掴んだ瞬間に彼女は肩をビクッとさせていた。華奢な手だなと思った矢先に怖がられてしまったようだ。心の中で謝りながらも不足した説明をする。


「いい忘れていたが進む方角などの飛ぶためのイメージがないと流されるぞ。プロセスは飛ぶ自分の姿だ」


「それを早く行って欲しかった」


そうだろうなぁ、俺もそう思う。まだ頭が混乱した状態でのイマジネーションでは上手く飛行するという想像は難儀なはすだ。そんな悩みは杞憂となった。

バランスを取るのを苦労していた彼女であったが少しずつ前や右と進んだり曲がったりとする。意図的に飛行しているのを落ち着いた様子から窺える。


「どうやら上手く飛べるようになったな」


「うん…スゴイ。まるで鳥のように羽撃いているみたい…」


彼女の上達はどうやら早い。空中で隣に並んで飛べるまでの時間はそう掛からなかった。そして今夜は月が照らされており風雅な気持ちにさせる。


「私は鬼川藍璃きかわあいり。貴方の名前は?」


心を許したのか彼女は名前を名乗った。


「名前か…名はアイテル・ドリーム・レインボー。それが俺の夢世界での名だ」


出来れば俺は本名で返したいところであるが現実では人物を捉えたくないので偽名で名乗ることにした。もちろん夢世界での名前は本当だ。


「名前にレインボーって…かっこ悪い」


「か…かっこ悪い!?」


ショックだった。まさか露骨に顔を歪めて不満そうに呟かれてしまっては。

夢のような世界と夜の虹が思い出とあったから名づけてみた。まぁ、これが初めてではないので大きなダメージは無い…そう無理していない。

まずはフォールした鬼川が安全に帰還が出来る場所を確保しないといけない。


「…アイテルさん、なんか…ごめん」


「はぁ?何を謝っているんだ鬼川。

それよりも現実に戻るまでに安全な場所に降りるぞ。見つかったら危ないしフォールしたからなぁ」


「気になったんだけど…フォールって?」


首を傾げて問い掛ける鬼川。


「初めての夢世界に一方的と招かれてしまったことを意味する。それよりも、この家に入るぞ」


俺は自分の家がある建物を指す。鬼川は首を縦に振る。先に俺が着地してから鬼川は拙く着地をした。女の子に家を上がらせるのは初めてではないが、恋愛関係でもなく初対面に浅慮すぎたかと後で後悔をするのだろう。

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