獣のようにも

<それ>が何を目的にしてどこから現れたのかを知る者はいない。ある日突然現れて、その場にいた人間をことごとく襲い、一方的に殺戮していっただけなのだから。


それらは、獣のようにも見えた。だが、獣というものは本来臆病であり、攻撃手段を持つものを前にすると警戒もする。


にも拘わらずそれらは、咄嗟に武器を手に取り抵抗を試みた者に対しても一切の躊躇なく、傷を負わされようとも、たとえ殺されようとも、まるで怯む様子を見せず、襲いかかってきたのである。


ある種の狂乱状態にある獣の群れであればそのような行動をとる場合もあるにはあるが、しかしそれらは、<獣の群れ>と考えるにはあまりにも異様過ぎてもいた。


何しろ、てんでバラバラの種類と思しき<獣のような何か>の集まりだったのだ。


非常に濃い灰色を思わせる体色をしているという共通点はありながら、ライオンのような獣、サイのような獣、ゾウのような獣、だけでなく、全長十メートルを優に超えるヘビのような獣どころか、T-REXを連想させる恐竜のごとき獣のみならず、巨大な翼と牙の生えたクチバシ状の口を持つ翼竜と呼ばれる生物そっくりの獣までがいたのだから。


それが人間と見ればただひたすら襲いかかり殺していくのだ。しかも餌として喰おうとするのとは限らず、ただただを殺すことのみが目的だとでも言うかのように。


男も女も老人も若者も関係なく、身なりが整った者もみすぼらしい格好をした者も関係なく、幼い子供も赤ん坊を連れた腹の大きな母親も関係なく、ひたすら無慈悲にまるで散らかすように体を引き裂き食いちぎり血と肉片に変えてばら蒔いていく。


それは、<凄惨>という言葉さえ生ぬるいと思しき光景だった。


こうして、最初に襲われた、雪を頂く山の麓にある人口百人にも満たない小さな村は、わずか十数分で一人残らず殺された。その村には、年齢を理由に引退したとはいえ、かつては勇猛で名を馳せたとされる<歴戦の勇士>がいて、実際に<獣のような何か>を一匹倒してみせたにも拘わらずである。


そしてその<獣のような何か>は、同じようにして次々と村や町を襲い始めた。これには当然、その地を治めている為政者も黙ってはおらず、すぐさま軍を派遣し迎え撃とうとしたものの、何匹かは倒すこともできたものの、一匹倒すのに十数人がかりでは、まったく話にならなかった。


何しろ<獣のような何か>の方の数も、確認されているだけでも数百規模になっていたがゆえに。


これではそれこそまったく話にならなかった。


これにより、襲撃を受けた村や町は、元が人間であったのかどうかすら分からない<何かの残骸>がただただ撒き散らされているだけの場所へと変じていったのだった。


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