姉とは呼べない姉

<パティリエカ>は、<ベル・ルデニオーラ王国>の王女だった。


生まれた時にはすでに輝くような美しさを持っていたとされている。それこそ、彼女の美しさに目が眩んだ産婆がその場に倒れ込み、三日間寝込んだのだとさえ言われていた。


それが事実かどうかは話半分であるとしても、砂糖菓子のごとく甘やかで見る者の心を蕩かせる魅力の持ち主であったことは間違いないだろう。


そんなパティリエカには、二人の兄がいた。正式な王妃との間に生まれた彼女と違い、側室の女性との間に生まれたものの、そのような立場の違いも超えて、兄達は彼女のことを大層可愛がってくれた。王も王妃ももちろん彼女を愛した。


こうして何不自由なく誰からも愛されて育ったパティリエカだったが、とても気になる者が一人いた。


と言うのも、彼女には本当は<姉>も一人いたのだ。ただ、その姉については、すでに彼女の家族ではなくなっていた。パティリエカが生まれる前に家臣の家に養子に出され、王位継承権も剝奪されていたのだ。


『王族に相応しくない素行が目立ちすぎる』


として。


なるほど、常に木剣を手にして、男のように髪を短く刈り、半裸に近い格好で、言葉遣いも荒く、何かと言えば、


「お前! 勝負しろ!!」


などと喧嘩を吹っ掛けるような者では、王族として相応しいとは言えないかもしれない。


けれど、その<姉とは呼べない姉>は、パティリエカのことはとても可愛がってくれた。実を言うとパティリエカの母親である王妃が王と結婚する前に王妃だった女性が母親なので異母姉妹ということになるのだが、そんなことは関係なく彼女のことを溺愛してくれた。


「パティリエカ! 水路に遊びに行こう!」


「パティリエカ! 馬に乗ろう!」


「パティリエカ! お前も剣ぐらい使えた方がいいぞ!」


などと、屈託なく構おうとしてくれたのだ。たださすがに、


『王女には相応しくない』


ということで、いつも家臣に止められていたが。


それでも、パティリエカ自身はそんな<姉とは呼べない姉>のことが実は好きだった。


最初は、


<なぜかよく王宮に遊びに来る、偉い家臣の娘>


だとしか認識していなかったものの、それが母親は違うとはいえ自分の実の姉だと知ると、


「お姉さま」


と呼び、慕った。


とは言え、さすがにパティリエカ自身が成長するにしたがって姉の振る舞いがいささか『問題あり』であると理解できてくると、


「お姉さまはもっとレディとしての自覚を持つべきです!」


などと小言を口にするようになっていったそうだが。


ただ、そのようにして姉の振る舞いに眉を顰めつつも、『お姉さま』と呼び、自分の姉であることについては、誰に何と言われようと頑として譲らなかったのだった。


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