第12話 修行計画!!


「俺、修行に専念しようと思うんだ!」



本堂に居た親父と、秋仁さん、冬篤変人の正面に正座し、決意を表明する。

てか、いつの間にウチの寺に戻って来てたんだこのニュースで話題になってた変人は。何かあったらウチの関係者では無い事を表明しなくては。



「…修行ねぇ〜。学校サボりたいだけだろお前」

「断じて違う!」


ニヤニヤとサボり発言をする巷有名人の変人に若干ドキリとしてしまう。別にサボりたいとかじゃないんだけれども、何故かドキリとしてしまう。ホント、サボりたいとかじゃないんだけども。




「……………」


秋仁さんにジッと見つめられてドキドキしてしまう。

ホント、サボりたいとかじゃないので、真意を見定める目を向けるのやめて下さい。ドキドキして冷や汗出て来ちゃう。


「やっと修行する気になったか。なら、勉学とお勤めに精を出し、精進するが良い」

「いや、勉学してるどころじゃないと思うんだよね。だって…」




「「「 ………………… 」」」




「いやいやいや!ホント!サボりたいとかじゃないから!!!」


「なら信善は1日ずっと、毎日、寺のお勤めすんの?」

「いや、今更お勤めしたところでそんないきなり法力上がらないから、お勤めするよりは、他に…」




「「「 ………………… 」」」




「いやいやいや!ホント!もうホントサボりたいとかじゃないから!!!」



だからみんなで、呆れの眼差しやら見定めの眼差しやら変人の眼差しやらを俺に向けるのをやめてください!!



「ニュース観たでしょ!?あの謎の爆発とやらが残念魔王の仕業なら何かしらの能力を得たってことでしょ!?格闘能力だけでもヤバいのに、更に能力付いちゃったら次はどうなるか分からないよ!?五臓六腑風穴開くどころじゃないかもしれないよ!?」


俺はなんかもう、必死だ。気づけばそれはそれは必死で説得していた。きっと俺はサボりじゃないということを分かってほしくて必死なのだろう。


「で?学校サボって何するつもりなんだ?」

「だからサボりじゃないって言ってんのに!!何で変人は人の話を聞けないの!?」


説得の甲斐もむなしく、サボり疑惑は晴れない。

このままでは俺の心も晴れない。一刻も早く容疑も心も晴らして、澄んだ青空のような俺の心を取り戻さなければ。


「いや、健康体なのに学校行かねぇならサボりだろ」

「諸事情によって行けないならサボりじゃないだろ!!俺が学校行ったせいで、関係無い人達まで巻き込まれたらどうするつもりだ!」


そうだそうだ!そうだぞ俺!俺が学校行って、そこに残念魔王が来ちゃったら、関係無い人達まで巻き込まれちゃうからね!!よく気付いた俺!偉いぞ俺!


「おーおー、最もらしいこと言っちゃって。…秋、どう思う?」

「…半々だろう」

「半々ね(笑)修行しなくちゃヤバいかもって焦ってるの半分、でもそれで学校行かないでいいなら、それはそれでラッキーって思ってるの半分、てとこか」


ぐふぅぅぅっ。


キレ者2人相手にぐうの音も出ない程ではなかったが、ぐぅの音とふの音しか出なかった。



「ふははっ、秋の慧眼と俺の洞察力に敵うと思うなよ?」



くっそぉー。



秋仁さんの慧眼は流石だと思うが変人に言われると癇に障る。もちろん言わずもがな秋仁さんに対しては尊敬一択しかない。が、変人に対しては癪に触る。変人の洞察力が鋭いところも腹立たしいし悔しい。くそー。


「…まったく」


親父が呆れ気味だ。しかし、修行も確かに必要なので説教もできない、といったところだろう。


「…修行について、自分なりの考えや計画があるのか?」


さっすが秋仁さん!!そういうところホント大好きです!


「はい!まずは内気、外気の修練の強化をしたいと思います!」


気功法の一つ、内気は、自分の体内にある気を上手く循環させ、内臓の働きを良くしたり、肉体を強化したり、毒や悪い気などを身体の外に排出したりなど、主に自分に対してつかう。


反対に外気は、体の外側にある気を巡らせ、自分の守りを強化したり、人や物に放つ事で攻撃手法にしたり、相手のヒーリングを行ったりなど用途は様々だ。


残念魔王の格闘能力と謎の爆破能力に対抗するには、内気(更に身体を柔らかくし、動かしやすくするための軟気)・外気(特に武術用の硬気)を強化しておく必要がある。


しかしこれは自分を守るための最低条件だ。勝つためにはこれ以上の事をしなければならない。


内気・外気は、あくまで自分の体内や自分の周りに有る気を練ったり循環させるだけで、自然界の気を自在に操れるわけではない。

しかし、勝つためには自然界の気を自在に少しでも自分に取り込んだり、動かせたり出来なくてはならない。


なんて言うだけなら容易いが、そんなん出来たら仙人レベルである。このご時世この国にそんな仙人居るわけがない…が、



居た!!すごく身近に!!!本人は隠しているつもりかもしれないが、俺の超感覚には敵わないぜ!!ふはは


あとで交渉してみるとしよう。



あとは、逆に、放たれた気を避けたり、受けたりする特訓もしないとだよな。



法力は、、、すぐに上がるものでもないので、こればっかりは地道にサボらず、毎日コツコツ仏道修行して功徳を積んでいくしかないだろう、、、。はぁ、、、。



「…なるほど。とりあえず最低限の基礎の底上げか」

「はい!!」

「…善、本来なら気をつかう修行の機会など日常生活の中で幾らでもあったのだぞ」

「…わかってるよ。掃除にしても坐禅にしても、何にしても、幾らでも機会はあった。自分の怠惰が今になってよく分かったよ」


そう、例えば俺が子供の頃からよくサボっていた掃除。

雑巾掛けにしても、内気(軟気)で身体を柔らかく動かしやすくしておいて、足に気を集中させればスピードも出せるし、筋肉への負担も少なく済むから疲れにくくなる。


よく眠りこけていた坐禅や、飽きて落書きしてしまう写経、異世界妄想世界へトリップしてしまう読経の時間も、呼吸を整え集中しながら、体内の気を循環させる静功も同時に行えた。内気で気や血液の循環を良くしておけば足の痺れや疲れも軽減出来る。


他にもまだまだ出来ることはたくさんあった。

これらを小さい頃からずっと続けていれば…残念魔王など相手ではなかったかもしれない。


修行か……。あ、そうか。


これが貧乏神様の言う、自分を成長させる試練?…なるほど。


なら、俺はまだまだこれからだ!俺は伸び代がある子だから今からでも全然大丈夫!!(希望)

この試練を乗り越えて異世界へ!!(切望)



「…勤務が無い時だったら修行をつけてやれるが…」

「!!」


秋仁さあああんんんんん!!!


「どれ、俺が…」

「嫌です」


ニヤニヤ顔の変人が名乗り出たので即却下する。


「まあそう遠慮するな」

「遠慮します」

「俺の修行は厳しいぞ」

「結構です」

「とりあえず…」

「お断りします」

「漢は黙って褌だな!話はそれからだ!」




…ちょっと何言ってるか分からない。




「魔王様のケツが爆発したとなりゃ、ケツの生態(気の経路)を詳しく学ばにゃならんだろ。でも褌なら一石二鳥だ!漢もケツも知れる!俺のケツも己のケツも魔王様のケツも知れる!褌万歳だ!!」




もう言っている意味が分からない。




「…そんなんだから秋仁さんに警察に突き出されるんだぞ」

「あぁ!あれねー!酷いよねー!ケツに傷がついた!」

「酷いのは変人の脳みそだ!ケツよりも脳みそに傷がついてるよ!もはやもう、ケツの事しか言ってねぇし!とにかく!変人に修行つけてもらうことはない!!」



てか、やっぱりあのニュースに取り上げられてたやつはお前だったのか!!分かってはいたけれども!!!

ホント、この変人と玄龍寺は無関係ですと断固貫こう。



「えぇー?…でも秋に修行つけてもらうって言っても、秋の能力は戦闘というよりは…ねぇ?お前じゃ参考にならないよ」

「?」

「んー…、例えば俺と秋、ただの練習試合なら五分五分。殺し合いなら秋の圧勝。…この意味分かる?」

「!?」

「仏に仕えるものが物騒な事を言うんじゃない」


これまで静観していた親父だったが、流石に殺生に関わるような物騒ワードにはストップをかけた。


しかし否定はしない。ならば、そう言う事なのだろう。


「秋はね、一撃必殺系なの。少年漫画や時代劇に出てくるような魅せる戦いとかは皆無。気付いたら殺されてた後だったみたいな、ホント、一撃で殺せちまう。だから戦闘向きと言うよりかは暗殺向き」

「本当に話を聞かんやつだな…。まぁ、秋宮家は丑寅の鬼門から来るモ・ノ・を退治する、退鬼師の家系だからな。退鬼師と言っても様々だが、秋仁は " 呪術・忍び型 " 特化なのだろう」


…それでも一撃で殺せると言うことは、余程の技術とセンスなのだろう。尊敬が崇拝に変わりそうだ。


「信善は真逆。気配消すのも下手だし、足音立てちゃうし、真っ向勝負大好きだし、感情が顔と気配に出ちゃうし、行動も思考も読みやすいし…」




……くっっっそーーーーー。悔しいが何も言い返せない!

ホント癪に触る奴だ!!




「単純バカだし、短気だし、要領悪いし、不器用だし」

「なんで途中から俺の悪口になったの!?」



「最近反抗期で生意気のわりにケツの縫い目破けてるし(笑)ホント、己のケツ知った方がいいよ(爆笑)」

「もうそれただの悪口だから!!しかもその話は2度とするな!!てか、結局ケツの話に戻すな!!もう破けてねーし!誰でも残念魔王と激戦になれば縫い目ぐらい破けるわ!2度とその話するな!!」

「俺は破けないね。何故なら、褌で戦うから!(キメ顔)

 あ、でもケツ傷ついちゃったら…」

「ケツの話はもぅいいっちゅーねん!!」



秋仁さんがため息をつきながら仮面を被せた申さるの式神を喚び出すと、申式神の手はグウアッと大きくなり、いつの間にか冬篤にアイアンクローしていた。しかもよく見ると、冬篤の口が上手く開かないようになっている…。そしてしっかり爪も立てている。。。



「○▲*□#◇〜〜〜!!!」

「…基礎をつけてやるくらいなら出来る」



秋仁さあああぁぁぁーーーんんん!!!!!



「気をつかったお勤めや作務などはご住職に、武術は軟気、硬気の素早い切り替えも兼ねて冬篤に修行をつけてもらうのがいいだろう」



えええぇぇぇーーーーーー……………。



「褌用意しておけ!」



アイアンクローから解放された冬篤の額はうっすら血が滲んでいた…。



「褌は必要無い。俺は気のつかい方の基礎のやり直し、式神やその他の事を教えよう。剣術は春さんに修行を頼みたかったが…」

「ああ、今朝早く本山に行っちゃ……そうだ、信善も本山行って修行つけてもらったら?そしたら秋が言ってた事、全部スムーズに出来るし。秋や俺はお勤めの他に仕事あるから時間がある時しか修行つけてやれないけど、本山の奴らはお勤め一筋だから毎日同じ人と決まったスケジュールで修行出来るだろ」



…なるほど。確かに効率が良い。しかし、



「前に自分で、本山は曲者揃いだって言ってたよな?」


ジト目で変人を見る。


「大丈夫大丈夫、今なら春が居るから」


あはは〜と手をパタパタしながら脳天気そうに笑う変人。

春徳さんが居なかったら大丈夫じゃないのか。

春徳さんは宮家本家にも行くと行っていたから、俺の修行中ずっと本山に居るわけでもない。


「……大丈夫じゃないじゃないか!!!」



真実に気づき、ツッコむ俺に変人が悟り顔で言い放つ。



「信善、これも修行のうちの一つだよ。あんな事やそんな事を甘んじて受けて来なさい」



…ちょっと何言ってるか分からない。



「洗礼を超えた先で新たな世界を知り、新たな自分の目覚めに気づくのです。恥じる必要はありません。むしろ悦びを感じなさい」



もう何言ってるか分からない。




そして冬篤、本日2度目のアイアンクロー。



アイアンクローの洗礼を超えた先で新たな世界を知り、新たな自分の目覚めに気づき、一人で勝手にそこで悦んでればいい。

…いや、目覚めたら目覚めたで更に面倒くさくなりそうだな…。目覚めても目覚めなくても面倒くさい。ホント厄介な変人だ。



「…まぁ、とりあえず現場を見て来ます。秋仁さんも仕事に行く時間でしょうし。それからどうするかを具体的に決めます」

「…そうか。桃花鳥姫と白狼を一緒に行かせるから心配は無いが…」

「大丈夫です!俺の勘が大丈夫だと言ってます!」

「そうか。なら、現場を見た後は学校に行くといい」



ぐはぁぁぁっっっ。



「…はい」

「俺も現場を見てから仕事に行く。夜、また本堂に集まってみんなでどうするか決めよう」



「はい!」


はぁ〜、やっぱり秋仁さん頼りになるなぁ〜!

俺が女だったら間違いなく惚れてたね!スキ!!



とりあえず今日は現場を見た後は大人しく学校に行こう…。



あ、念のため貧乏神様の所にも現状報告してくるか。

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