第3話 異世界準備は万全なのに!!

「…はぁ、あぶねーあぶねー。毎日走り込みしといてよかった」



源三オヤジの説法から無事逃れられた俺は、神社へ向かうべく正門へ続く庭を通り抜けようとしていた…その時だった!!




…ヒュゥオッッッ!!!




「 !!………!?」




「…わか、どちらへ?」

「ゲッ」



大箒で鋭い胴切りスイングをかましてきたウチの庭師、一郎爺さん(58歳)が、タダならぬ圧をかけながら、一歩、また一歩と近づいて来る…。


一郎爺さんは親父に恩があるらしく、跡取り息子である俺のサボりを見つけた日には、それはそれはもぅサスペンス劇場にも負けないくらいのサスペンス《お仕置き》を強いてくる困った爺さんなのだ。

某俳優もビックリして犯人を崖から突き落としてしまうのではなかろうかという勢いだ。


この一見美しい玄龍寺の庭に、油断してると仕留められてしまうような、とんでもセキュリティが居る《ある》などとは誰も思うまい。

…まぁ、サボるような人物も俺くらいなもんだろうが…。



「いや、ちょっとお醤油を買いに…」


俺は逃げるように早足で歩く。が、


「足りてるので大丈夫ですよ」ヒュンッ!ひょいっ


向こうも仕留める勢いで箒を振り回して来る。


って、いやいやいや!仕留める勢いで来るって、もぉ普通にちょっとした事件簿だからね!そもそも箒ってそう使う物じゃないからね!てか危なっ!箒は人に向けちゃダメなんだからね!!ダメ、絶対!!てか、何でウチの台所事情まで知ってるの!?



スタスタスタ…


「トイレットペーパーも買わないとみんなのお尻と人としての尊厳がピンチにーーヒュンッ!ひょいっヒュッ!ひょいっ

「足りてるので大丈夫ですヒュンッ!ひょいっヒュッ!ひょいっ」


スタスタスタスタスタスタスタスタ



…あれ? おかしいな。


脚回転めっちゃ早くして早歩きしてるのに、箒振り回して歩いて来てる一郎爺さんと全然差が縮まらない!!てか、何でウチの日用品在庫まで把握してるの!?



スタタタタタタ


「一郎爺の笑顔もマックで買ってこないとーー

「足りてるので大丈夫です…よ!!ヒュヒュヒュヒュッ」

「いや足りてな…100連スイングキターーー!!!」



うおぉぉおおわああぁぁぁぁぁーーー!!!



避けきれ俺っ!!頑張れ俺ー!!!



くおぉぉああわああぁぁぁぁぁーーー!!!



「…ハァ…ハァ…」

「…ハァ…全部…ハァ…避けきる、とは…ハァ…流石若…」

「…ハァ…ふ、まぁな…ハァ…じゃあな…」



男二人でハァハァしてて在らぬ誤解をされるのも嫌なので足早にその場を去る。



「…くっ…無念…ハァ…御住職、申し訳ございませぬ…寄る年波には勝てぬか…」



いやいや、ホント何者なの!?あの有名な某イチローとて、あそこまでの左右両打ち100連スイングは出来まい…一郎爺(58歳)恐るべし…。怖い…。



しっかし…武術全般励んでおいてよかったぁーーー!!!


寺の修行やら掃除やらはサボるけど、武術だけは精進してきたからな。


武術は、少林寺ほどではないが、うちの寺も武術を嗜む。

この寺を管理する九条家は、摂家であった九条家から出家の道を選んだという先祖の遠い遠い家系らしい。本当かどうか知らんけど。


"心身共々健康に"がもっとうなので武術を嗜むのはその影響なのだろう。

なので、物心ついた時から合気道はウチの親父に習っていた。


しかし小さい頃は、空手の方がカッコイイと空手に憧れ、週に何度か近所にある空手道場をこっそり覗き見に行き、そこでこっそり技を盗んでは、後でこっそり練習していたりもした。こっそりしていた幼少期であった。


…こっそりし過ぎて、夜な夜な怪しい子供の影が見えるとか、ちょっとした怪奇現象元( ꒪⌓︎꒪)になったこともあった。



少年期には、アクション映画の影響を受け、周りの男子がウンコチンコはしゃいでる中、うんこやちんこに情熱をかけるより他にもっとやるべき事があるだろう!と、カンフーや拳法、プロレス技、テコンドー、カバジーetcを研究していた。


なので男子達の中で浮いた存在になっていたのは言うまでもない。なにせガチ度合いが周りが引くようなレベルだったからなぁ〜あはは(遠い目)。


チャンバラごっこを「武器に頼るな!漢は拳だ!」と素手で潰しに行く…ヒーローごっこを「ヒーローに敗北の文字はない!」と本気で勝ちにいく…ケンカを「俺に敗北の文字はない!」とガチで叩きのめす…etc.etc...


うん。そりゃぁ引くよね。引くよ。俺でも引くもんそんな奴。いやぁ〜……みんなすまぬ!!…よしっ。懺悔終了。



そして中学に入り、部活では柔道と剣道を掛け持ちしていた。

休日は幼馴染みが弓道部だったので、時々教えてもらっていた。



お陰で一通りの武術は出来る様になったのではないだろうか。



なので異世界転生or召喚されても、体術、剣術、弓術スキルは取得しやすいことだろう。

転生したとしても、記憶はそのまま残ってるのがお約束らしいし。



…あれ、コレはもう、異世界に行く為の環境だったんじゃね?もぅ、神様の思し召しなんじゃね?うちには仏様しかいないけど。



てことで神様! 俺はいつでも準備O.Kだ!!

いつでも俺を喚んでくれ!

てかもぅ今すぐにでも喚んでくれ!!




……まだお喚びがないので現代待機する。




と、まぁ、そんなこんなで武術ばかりに磨きをかけていたので、勉強はさっぱりだ。



だが!異世界転生や召喚に必要なのは学校の授業内容知識なんかじゃない!!てか、むしろそんなものは要らない!

必要なのはサバイバル知識だ!!


身分証の確保やレベルを上げるのに冒険者ギルドに入るのは鉄板だ。

冒険や街の移動に野宿なんてザラだ。


だから俺はキャンプやサバイバル実習などに積極的に参加した。



なので急に森の中や知らない土地に異世界転生or召喚されても、水や寝床の確保、火起こしなど最低限の事は出来るだろう。転生したとしても、記憶はそのまま残ってるのがお約束らしいし。



…あれ、コレはもう、異世界に行く為の環境だったんじゃね?もぅ、神様の思し召しなんじゃね?うちには仏様しかいないけど。



てことで神様! 俺はいつでも準備O.Kだ!!

いつでも俺を喚んでくれ!

てかもぅ今すぐにでも喚んでくれ!!




…… 今日もお喚びがないので現代待機する。





まだ召喚される気配が無いので、水道管、排水管、浄化槽などの仕組みや設計、知識も身に付ける予定だ。水は生きていく上で欠かせない。衛生面も大切だ。異世界では現代ほどの技術も無く、疫病とかもありえる世界がほとんどだ。、、、そう考えるとすごいな現代。歴代の研究者と技術者の方々に惜しみない拍手を贈りたい。ありがとう。



いやしかし、異世界召喚されたい!(振り出しに戻る)



てことで神様! 

早く俺を喚んでくれ!

てかもぅ今すぐにでも喚んでくれ!!はよ!はよ!



……現代待機する。




…やっぱり、俺から行くしかなーー



ブオオ〜ブオオ〜


「若が逃げたぞぉーーー!!!」



ゲッ!!一郎爺!!!呼吸と体力が復活したか!



「うおおぉぉぉぉぉぉ!!」 ドドドドドドドッ



ぎゃぁぁぁ。一郎爺のおおぼらで、弟子達が箒やら熊手やら持って走って来た!て、いや万能長ハサミはダメでしょ!!Σ( ꒪□꒪) 俺をどうする気なの!?リアル事件簿にしたいの!?

え、のこぎりはもっとダメでしょ!!Σ( ꒪□꒪)いつからこの寺はホラー仕様になったの!?


おおぼら聞いて反射的に走ってきたとは言え、ちょっとは考えようよ!手元確認しようよ!


てか、一郎爺、何でおおぼら!?いつの時代の人なの!?


てか、何で出会え出会え〜みたいな感じになってるの!?


てか、何で俺脱走兵みたいな扱いになってんの!?


てか、一郎爺達は一体何を目指してるの!?

庭師は庭師らしく庭の手入れだけに専念してて下さい!!!


ダメだ!これ以上はツッコミ切れん!!走ることに集中しよう!



ほんと…走り込みしといてよかったーーー!!!




セコ○もアルソッ○もビックリのおおぼら《警報》が鳴り響く中、俺は脱兎の如く逃げ出し、当初の目的である神社へと向かったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る