ー 九条 源三 ー

玄龍寺の現住職、九条源三は、玄龍寺に此の人有り、と

界隈では有名であった。


7つの対魔の力の内の1つ、『破魔の力』を宿しているのも理由のうちの1つだ。


心霊関係の仕事を生業としている人でさえも、よく源三の破魔札を貰いに来ていた。



『破魔の力』とは、魔を打ち破る力のことである。

魔に侵されたモノ(場所、環境、人、物など)に憑いた魔の効果を打ち破るものだ。



先天的に7つの対魔を宿す者は限られており、後天的に対魔の力を習得するには、かなりの修行が必要であった。

源三は前者である。


必ず遺伝するものでもないので、先天的に得られた源三は、

仏様のお恵み、思し召しと考え、僧侶になる道を選んだ。


しかし源三は、息子達は自分以上に仏様の恩恵を受けていて、何かしらの才能を持っていると思っている。

特に信善に対しては確信があった。



長男が産まれた日から、やたらと動物が寄ってくるようになった。動物達が長男を見に来て、見守っているような感覚だった。

それを見て、ブッタの逸話のように、長男は動物から愛される体質なのだろうと思った。



次男、信善が産まれた日、本殿の主棟の上に乗って鬼門を向いていた筈の飾り瓦の龍が、いつの間にか敷地内を見下ろしていた。

更に、池の水にいた玄武の石像も、いつの間にか池の近くの陸地に上がっていた。


源三を初め、それに気付いた僧侶達は、一時騒然となった。


なので信善には何かある!と、期待を掛けていたのだが…


掃除はサボるわ、座禅は眠りこくわ、読経は破茶滅茶だわ、写経は嫌がるわ、あげく落書き始まるわで、全く仏教に興味を示さず、源三は頭を抱える毎日であった。



お陰で、生まれつき霊力は高いものの、武術以外は何の才能も見て取れなかった。


武術の才は幼い頃から秀でていた。幼いころから異様な速度で、メキメキといろいろな武術を身につけていった。

間違い無く天性のものだろう。


武術以外にも、絶対に何かはあるのだろうが、本人に自覚やきっかけ、やる気がなければ開花は出来ない。実に勿体ない。

宝の持ち腐れであった。



なので、源三は日々悩んでいた。



しかしこの日、信善が神社に行ったことで、これから起こる出来事を通し、少しずつ天賦の才の片鱗が垣間見えていくようになるのであった。


(別の悩みも出てくることになるのだが…)

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