ー 式神巫女 珠緒の場合 ー

ーーーその異端児は突然やって来た。







境内を掃除していると、神社の木々がザワザワし始めた。


異なモノが来る前兆だ。


朱雀と白虎が守護しているとされるこの神社に、一体何が訪れるのか。



「…いちをの備えはしておこう」



神社内の気を清浄に保つため境内の掃除は毎日かかさず行っているが、今日は念には念を込めて念入りに掃除しよう。

その言葉通り箒に破魔の印と念を入れる。




「!」



何か来る。



「……………」



気配のある方に視線を向けると、1人の少年が鳥居を潜ろうとしていた。



「……………」



異様に霊力が高い。一体何者だろうか。



スッ…



退魔結界の拒絶も歪みも変色もなく鳥居を潜って来た。邪の者ではないのだろう。



「…警戒する必要は無い…か…」



再び掃除を再開する。



何用で来たのだろうか?

霊力以外で特出したものは視てとれない。


しかし少年は清浄な気に包まれている。あそこまでの清浄な気を保てるのは、この辺では玄龍寺くらいしかない。

霊力も異様に高いし、玄龍寺の関係者なのだろうか?

しかし、法力は乏しい。…生臭坊主?


「…あぁ…」


明様が仰っていた例の幼馴染の跡取り息子の事を思い出した。



そして鳥居の入り口で式神が此方の様子を伺っていることに気づく。


「…あれは玄龍寺の…」



ということは、この少年は玄龍寺の跡取り息子で間違いないだろう。


しかし、玄龍寺の式神達は、今もなお、かつての始祖に忠誠忠実で、玄龍寺を護ってはいるが、坊主達に対し大人しく従属することは無い。奴等はそういう輩ばかりだ。忠誠忠実なのは、あくまで始祖だけなのだ。

その輩がこの跡取り息子の跡をつけて来ている。

いくら跡取り息子でも、奴等はここまでするだろうか?


この跡取り息子は何か特別なのだろうか?


「……………」


遠巻きから観察してるだけでは分からなーー


「…今日は慈鳥丸じちょうまるか…珍しいな」




!!




…あれが視えるのか。




跡取り息子は視線だけを鳥居に向けて呟いた。



玄龍寺の式神といえば上位のモノが多い。


中でもくがねしろがねあかがねくろがねいたがね烏丸からすまる嘘鳥丸をそどりまる慈鳥丸じちょうまるは位が別格だ。

本来、式神に納まるようなモノ達ではない。


式神達もその自覚と誇りがある故、簡単に人に姿を視せたり気配を感じさせたりなどしない。


その上であの少年は視えるのか…。


一体彼に霊力以外の何があるのだろうか。



疑問は尽きず、掃きながらも考えを巡らせていると、向こうもこちらに気づいたようで、跡取り息子は此方に視線を向けた。




……私のことも視えるのか…。




思わず怪訝な顔を浮かべてしまった。



「……あなた程度の人間が一体何しに来たの」

「言い方ーーー!!!言葉は選べ!客に失礼だぞ?!」



箒ごと視えないようにしていたのだが…私もまだまだだな。


しかし、私が視えたところで普通の巫女見習いにしか見えまい。




「式神だからって言って良いことと悪いことがあるんだからな!」



 !!



「…なるほど。霊力だけは高い人間だとは思ったが…私の事をある程度は分かるのか」




…面白くない。たかがちょっと霊力が高いだけの人間に見抜かれてしまうとは…!


ガッガッガッ


箒で念入りに足元を掃きつける。


ガッガッガッ


「俺の足に箒をガツガツ当てるのヤメロ!!」

「ゴミを排除するのが、私の仕事なので」

「客をゴミ扱い!!?」

「お客様はキチンと客人扱いしますよ。何を言ってるんですか」

「俺も客だ!!」

「では、あちらの鳥居をお進み下さい」

「帰す気満々かっ!!」

「…チリトリでは入らないので、一輪車を持ってきます。大人しくそこに居て下さい」

「排除する気満々かっ!!ちょっと責任者呼んで来い!」



しれぇ〜っと掃き掃除を続ける。



清浄な気の人間に破魔の箒など効かないが、物理的には少しは効いただろうから、ちょっとは気がすんだ。



少年はぶつぶつ言いながら奥へと進んで行き、鈴緒を手に取った。



…此処が何の神社か分かっているのだろうか…?


まさか招ぶつもりなのか…?大した能力も無いのに…。


まぁ、不相応なら何も起きないが…なまじ霊力が高いので下手な神が降臨したら面倒なことになる。


「……………」


しかし、ただの少年ではなさそうなので、どうなるのかという興味もある。




ブチっ…ゴッ



ガランガランッ



((ガランガラン))



((ガランガラン))




境内に鈴の音がコダマする…。


「〜〜〜!!!」


跡取り息子の頭上に鈴が落ち、痛そうに頭をわしゃわしゃさすっている。




「………」





一見、マヌケに見えるが、この神社の鈴緒が切れるのは何かの前触れだ。




 !!




この気配は………




パァァァァァァ



 !!!



社の中から光が溢れ出してきた。



「キターーーーーーーーー!!!!!」



何も分かっていない跡取り息子はひたすらに喜んでいる。



「ええ、…来てしまいましたね」



これから待ち受ける現実に、この跡取り息子はどう思うのか。

そしてどうするのか…。




興味が沸いたこの少年を、もう暫く見届けることにした。




…面白くなりそうだしね。

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