第二十一回春町高校吹奏楽部定期演奏会

冬月雨音

本編

 開演ブザーが鳴り幕がゆっくりと開き始める。第二十一回定期演奏会、私たち春町高校吹奏楽部の一番の大舞台にして三年生の最後の演奏会が始まった。


 指揮棒が振り下ろされコンクールの課題曲、マーチえ「エイプリルフール」が始まる。私が二年生になり、初めて吹奏楽コンクールに出場したときの課題曲だ。


 二年生に上がってからの休日のほとんど、特に夏休みはこの曲と自由曲の練習にささげられたといっても過言ではないほどにこの曲を練習した。もちろんつらかったことは言うまでもなかったが、それよりも先輩と一緒にずっと練習できる喜びのほうが圧倒的に勝っていた。


 私たちの中学校は運動部の部員が増えてゆきどんどん吹奏楽部の部員の人数が減ってきているそうで、今では各パートに三人前後、多いところでも五人に減ってしまった。もちろん私の所属しているフルートパートも例外ではなく、メンバーは私と先輩の二人だけだ。もちろん一年生の後輩が入らなかったわけではないが夏休みに入る前にすぐにやめてしまい今では二人きりになっている。そんな時間も今日、あと数時間で終わってしまうと思うとこみあげてくる感情がある。


 気が付くと第一部がほとんど終わってしまっていた。二部との間の休憩時間の間の先輩とのデュエットをすることになっているため一部の片づけは手短に済ませて先輩と共にロビーに移動する。開演前のロビーアンサンブルの時の譜面台に譜面を乗せる。曲は先輩が作曲し、私が編曲したオリジナルの曲だ。この曲でアンサンブルコンテストにも出場し、県大会を抜けた曲でもある。残念ながらその先には進めなかったが、自分たちが作った曲がたくさんの人に聞いてもらえるということの楽しみを先輩と共有できるというこの上ない喜びを感じられただけでも十分価値のある体験となった。


 ロビーアンサンブルが終わり二部の準備を始めていると先輩が近づいてきた。

「もうこれで終わりなんだよね……」

「もうすぐ終わり、よりもあと少し続く、の方が良いよねってコンクールの結果発表で言っていたのはだれでしたっけ?」

「……あぁそうだね、あと少し続く。うんそうだ、まだ続くんだ、楽しんでいこうか。悲しむ暇もない程に」

「そうですね。ところで先輩って時々言い回しが詩的になりますよね」

 そのまま私は何も言わずに舞台に上がって準備を続ける。これ以上話していると涙が出てきそうだったから。


 二部が始まる寸前、マーチングのように振り付きで演奏しながら入場するために舞台袖にいると、となりにいた先輩が近づいてきて

「ありがと、さっきの少し元気出た。あと少しだけど楽しんでいこ」

「……はい」

 それしか返せないまま二部の開演ブザーが鳴り始めてしまった。

 立奏メインの一曲目が終わり二曲目からはずっと先輩の隣で演奏ができる。これで最後だと思うと涙が出てきてしまいそうになる。


 アンコールが終わり部員は全員ロビーに出て保護者や友人と記念撮影などをしていた。私は結局アンコールで泣いてしまったが、そのおかげで今先輩と二人きりでステージで話をできると考えると悪くはなかったのかもしれない。

「先輩、終わりましたね」

「あぁ、終わった。うん、終わったね」

「最後に写真撮りませんか?」

「そうだね、そういえば二人で撮った写真は一枚もなかったね。いいよ撮ろうか」

「せっかくですしステージの真ん中で撮りませんか?指揮台のとこで」

「せっかくだし楽器持ってる方が良いか」

「そうですね……それじゃこっち来てください。撮りますよ。ハイ、チーズ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

第二十一回春町高校吹奏楽部定期演奏会 冬月雨音 @rain057

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ