第3話 おなかに染み渡る優しい卵
おなかがすいた。
しょんぼりする事もあった。
だぶるぱんち。
さてさて、今夜は何を頂きましょうかね。
悲しい、悔しい、ヤな事があった日。そんな日のお夜食は、お腹も心もあったまるもの。
麺を茹でたりする大きいお鍋に、水を張る。水の高さは、マグカップを鍋の中に置いた時、半分浸かる位。
赤い短冊みたいなカニカマを、食べやすい適当な大きさにざっくり切る。切ったら、ボウルへぽいぽい。
卵を二つ、パカパカ割ってボウルへぽぽい。
台所で栽培中のネギも適当に切って、ボウルへぽぽぽいぽい。
仕上げはやっぱりヒガシマル。うどんスープを一袋。
あ、水も入れないと。そうだな、コップ一杯くらいかな。500mlのペットボトルなら、四分の一くらいかな。もうここはお好みで。
菜箸でかちゃかちゃかちゃかちゃ掻き混ぜる。
大体混ざったら、マグカップへ。オタマでそうっと零さないように注ぐ。もちろん、カニカマが沈んでいるので、掬って入れる。マグカップ3つ位に分けて注ぐと、そのカップをお鍋の中へ置く。
水面を揺らして水が入らないよう、そっと、そっとね。私の波立った心みたいに、繊細なんだ。
水を張った鍋にカップを全部置くと、蓋をして火をつける。沸騰するまでは中火。沸騰したら弱火。時間? 適当。ごめん。うーん。沸騰してから3~5分もすれば十分だと思うな。
そうそう、湯気が凄い事になるから、換気扇もしっかりね。でも、冬の寒くて乾燥した夜なんかには、良い加湿器がわりになるかも? なんてね。
さあ、もう出来たかな。火を止めて、あっちっちだからミトンでそっと取ってね。ない? じゃあ、濡らした布巾を手に巻いとく? 滑らないように気を付けて。布がお湯に浸かっちゃったら、熱いお湯が上がってくるよ。火傷しないでね。
まずは一つ。マグカップをテーブルへ置いて、スプーンを持ってくる。具材が底に沈んでいるから、表面はプリンみたいに何もない。
ふふふ、一人のお夜食だからね。お夜食のテーブルマナーは、美味しく食べる事。だから、見た目気にせず、スプーンでカップの中身を掻き混ぜます!
カニカマの赤と、ネギの緑が、薄黄色い卵の中から出てくる。
フレー! フレー! 大丈夫大丈夫! そうやって、応援してる紙吹雪みたい。
茶碗蒸しというには、雑に作ったお好み蒸し。その時にある、好きな物をぽぽいぽいと入れて作る、卵蒸し。
あっちっちの卵蒸しは、掻き混ぜて中の湯気がもわっと眼鏡を曇らせてくる。だから眼鏡を外して食べるんだ。
一口。二口。三口。
口の中で、卵とお出汁が広がっていく。しょっぱいカニカマや、さっぱりネギがたまに顔を覗かせる。
四口。五口。
いつもより、しょっぱい気がするのは、きっと気のせい。
六口。七口。
鼻水が出るのは、あったかい物を食べたから。ああ、ティッシュティッシュ。ずびびー!
八口。九口。
ほら、鼻かんでスッキリしたら、しょっぱいのだって一緒にティッシュに丸めてポイだ。
十口。
からっぽ。今日会ったヤな事も、からっぽ。リセット。
あー、美味しかった。残りは、明日の朝ごはんだ。うん。朝から美味しいぞ!
ごちそうさまでした!
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