結1 ー 本棚の上

優美と会ってから三か月後、僕は運良く第一志望だった企業から内定をもらい、それを機に綾乃と婚約した。 やはり彼女の父は僕に殴りかかり、僕も通過儀礼として一発くらいは殴られようとじっとしていたが、僕の前に綾乃が立ちはだかり、彼女の母もおたまを振りかざして、夫の蛮行を阻止していた。


その後も奈良橋一輝の消息は知れぬまま、更に一年が過ぎ、僕は綾乃と結婚した。

招待客は二人の親族、友人、そして会社の上司・同僚で仲人は立てず、人前式とガーデンパーティーにした。


そして今、綾乃は出産を控えて実家(同じ区内で車なら20分)に里帰りしている。

僕は子供のスペースを作るために寝室の模様替えをしていた。

本棚を動かした時、本棚の上から箱が落ちた。 箱の中には大学ノートが十数冊入っていた。

中を確認すると綾乃の日記だった。

僕は悪いと思いながらも好奇心に負け、その日記を読み始めてしまった。

新しいものが上になってので、面倒だが逆読みすることにした。

最新のものは二人の新婚生活が彼女の感想と共に綴られていた。 彼女の僕への愛情が沢山詰まったその日記は彼女に会えない無聊ぶりょうを紛らわしてくれた。

何冊か読み進むうちに、優美と再会した日の事が書かれていた。

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五月四日

初めて拓海さんの元カノと実際に会う。

調査書の写真の子だ。

彼女は奈良橋一輝が行方不明でかなり憔悴していた。

私の初恋を邪魔したんだからその位は苦しんでもらわないと。

もう帰ってこないあのクズ野郎なんて忘れちゃえば楽になるのに。

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え? 調査書って何だ? 奈良橋は帰って来ない? 何故綾乃が知ってるんだ? 綾乃の初恋って?

奈良橋と何かあったのか?


嫌な汗が額に吹き出す。 綾乃と奈良橋は会っている。 いつから? 何の為に?

まさか綾乃も奈良橋に?


不安に押し潰されそうになりながら慌てて日記を読み進める。

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三月二十三日

初めて人を殺した。 

震えが止まらない。

早く忘れよう。 

これはヤツへの天罰だ。

私は契約をちゃんと守った。 

契約を破って脅迫してきたのはヤツだ。 

私は悪くない。

拓海さん、自分の幸せを守る為に殺人を犯した私を許して下さい。

拓海さん、愛してます。

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三月二十日

準備は完了。

後は冷静に遂行するだけ。

絶対に失敗できない。

絶対に気取らせるな。

拓海さん、愛してる。 

お願い、私を守って。

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三月十日

奈良橋から連絡があった。

追加で百万円と私の身体なんて。

渡せばまた強請られる。

私を抱けるのは拓海さんだけ。

他の男には死んでも触らせない。

拓海さん、愛してる。 

お願い、私を助けて。

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綾乃が奈良橋を殺したのか⁉︎

でも何故綾乃は脅迫されたんだ?

綾乃は奈良橋と関係を持っていた?

真相が知りたい僕はそのまま日記を読み進めた。




日記は全て読んだ。

綾乃は僕の彼女になる為に奈良橋に優美を寝取らせ、奈良橋がその事で綾乃を脅迫し、そして綾乃に殺された。


綾乃が人を殺めた。

だけどそれは脅されていたから。

綾乃が僕と優美を引き裂いた。

でもそれは綾乃が僕を好きだったから。


僕はどうすればいい?




とりあえず、日記を読んでしまったことを謝ろう。

そして綾乃の口からちゃんと全てを聞こう。

そして、その後で僕の気持ちを綾乃に伝えよう。


やっと結論が出た時のは、明け方の五時半をまわった頃だった。




産院は立ち合い出産不可だったので、僕が分娩室に入った時にはひと段落ついていた。

綾乃の腕の中には赤ん坊が抱かれていた。

元気な女の子だった。

「お疲れ様、そして元気な子を産んでくれてありがとう。 綾乃、愛してる」

汗ばんだ綾乃の額に口付けする。

「うん、拓海さん、私も愛してる。 抱いてあげて」

看護師さんは綾乃から赤ん坊を預かると僕に渡してきた。 僕は子供を受け取り、おっかなびっくり抱いて、感慨にふけりながら落ち着いた所でまた看護師さんに預けた。


分娩室を出ると、僕の両親と義父母が待っていた。

「ありがとうございます。 母子共に元気でした」

「今説明を聞いたよ、女の子だって?」

「はい、綾乃の子ですからきっと美人になると思います」


@@@@@


ごめんなさい!

起承転結のつもりだったんですが、

'結'が長くなっちゃったので分けます。

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