転  ー 新しい恋

僕はまだ優美に振られた後遺症で女性を信じられない事や無気力な事を理由に断ろうとしたが、

「恋を忘れるには新しい恋をするのが一番よ」

といわれ、仮で付き合う事になった。


神山先輩、いや綾乃はとても甲斐甲斐しくしてくれた。 時間が許す限り一緒にいて、会えなかった日は毎晩SNSや電話でその日あった事、特に男性関連はみんな話してくれた。

普段なら少し重く感じたかもしれないが、今の僕には心配させまいとするその気遣いが嬉しく、段々と彼女に心を開き、彼女に惹かれていった。


一か月も経つと周りも僕達をカップルとして認識するようになり、三か月後にあった綾乃の誕生日に僕等は本物の恋人同士になった。

驚いたことに、綾乃は僕が初めてだった。

僕の腕の中で恥じらいに顔を赤くしながら一生懸命に僕を受け入れてくれた彼女を誰よりも愛しいと思った。


綾乃は恋人として完璧な女性だ。

外見は勿論、普段は僕を立ててくれるが、言うべき事はちゃんという。 人の陰口も言わないし、いつも「ありがとう」「愛してる」を当然のように言ってくれる(僕も綾乃には言っている)。 そして何よりも優しい性格で僕はどんどん彼女に惹かれていく。

夜についても身体の相性は(経験二人なんだが)抜群で、女性として開花するに従い、恥ずかしがりながらも僕を貪欲に求めてくれるようになっている。


そんな彼女に何故今迄付き合った男性がいないのか聞いてみると、友達はいても、恋人になりたいと思った男性はいなかったそうだ。 おまけに実家が裕福な上に娘を溺愛し、高校までは門限が20時、今でも日付が変わる前には帰宅していなければいけないらしいので男性と知り合う機会もあまりないとの事だった。


彼女が就職したタイミングで彼女の両親に紹介された。 父親には殴られこそしなかったが終始厳しい視線に晒された。 逆に母親は僕を歓迎してくれ、早く孫の顔が見たいと言ってくれた。 早くそうなれる様に頑張りますと返した時に、父親が舌打ちをして女性陣に吊し上げを食らっていた。


そして四回生の春、二人で外苑前付近を歩いていると、前から見知った女性が歩いてきた。

「優美?」

「タク......ごめん拓海君、だね」

二人を互いに紹介したのだが、優美の様子がおかしい。 何と言うか憔悴した感じだ。

気になったので近くの喫茶店に入り話しをきいてみた。


開口一番

「因果応報なのかも」

と優美が言う。

「どうしたの」

「一輝が、いなくなっちゃったの」

一輝と言うのは件の浮気相手だ。

三か月ほど前に急に連絡が取れなくなり、その妹である優美の友人に連絡するも、そちらでも何も分かっておらず、捜索願いを出しているらしい。

そして優美もこうして暇を見ては盛り場やターミナル駅付近をあてもなく探しているらしい。

「とりあえず気を確かに持って家で待っている方が良い。 彼が見つかった時に優美が事故にでも遭ってたら大変だし」


当たり障りのないアドバイスをして優美と別れた時に気がついたのだが、胸が痛まない。

何年も経っているとはいえ、全く嫌な感情が出てこない。

どう考えても、綾乃のおかげだよね。

「綾乃、ありがとう」

「え?」

「さっき優美に会ってヤツの話を聞いた時に嫌な感情が湧かなかったんだ。 綾乃との恋が上書いてくれたんだ。 だからありがとう」

綾乃はいつもの笑顔よりずっと蠱惑的な笑顔を浮かべて、組んでいた腕をもっときつく組み直した。

また当ててるでしょ!

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