承 ー 神山先輩
優美と違う大学に進んだおかげで、学内で顔を合わせる事はない。
同じ大学ならそもそも別れてなかったかもしれないのでこれが不幸中の幸いなのかどうかは議論する余地が残るけど。
それでもすぐに立ち直れる訳もなく、講義も出席はするが心ここに在らずで、日々を浪費しながら心の傷が癒えるのを待っていた。
俺の所属しているテニスサークルは、小さな学際の大会にも参加する準体育会のサークルで、ちゃんと練習もするけど遊ぶ時は遊ぶ、そんなサークルだ。
ただサークルの創立が比較的新しいため、部室はキャンパスの奥、人通りの少ない場所にあるサークル会館の一階にある。
そろそろ体も動かさないと鈍ってしまうので、重い身体とやる気のない気持ちに鞭打って部室へと向かう。
「こんにちは」
「うわっ! だ、誰?」
部室まであと少しの場所をボーッとしながら歩いていると、道の脇から急に人影が飛び出してきた。
「脅かしてごめんなさい、でも誰だ! は酷くないですか?」
「え〜っと、どちら様でしたっけ?」
「思い出してもらえませんか?」
落ち着いたツヤツヤの茶髪を肩で揃えて、長い睫毛で大きめの瞳を挟み、スッと通った鼻筋とプクッとした可愛い唇のこの八頭身スレンダー美人を僕は知っている。
知っているけど誰だっけ?
「あ、ミスキャンパスの神山先輩!」
思い出した。 学内で有名な美人の先輩だ。
「そっちですか⁈ そうではなく、三週間ほど前に◯◯駅の路地裏で」
「あーっ! 変な男達に絡まれてた人、ですよね⁈」
今度はちゃんと思い出した。 俺が助けた美人さんだ。
「その節は助けていただきありがありがとうございました。 苗字しか教えてくださらなかったので、探すのに時間がかかってしまいました」
「そんな、あの時もいいましたけど、気にしないで下さい。 ただ声を出しただけですから。 でもこの大学だったんですね」
神山先輩は僕の腕に自分の腕を絡ませて上目遣いで話してくる。
当たってる! 当ててるのミエミエだけど当たってるから!
多分優美より大きい、DよりのEだな。
「これからサークルですか?」
「はい、あ、敬語はナシで、こっちが後輩ですから」
「うん、分かったわ。 これならいいかな、加藤拓海君」
あれ? 何で下の名前知ってるんだろう?
「はい。 で、何故腕を組んでるんでしょうか?」
「やっと会えた命の恩人で一目惚れした私の王子様だから?」
「いや、別に命の恩人ではないし王子でもありません。 そして何故疑問形」
結局腕は組んだまま、サークル会館一階の部室に到着。
「チワーッス」
「拓海君おひs......えーっ! か、神山さん⁈」
「あら吉岡さん、こんにちは」
「何でこんな所に?」
「拓海君があの命の恩人だったの。 それでさっきそこの道で偶然再会したの」
ちょっと待て、偶然って待ち伏せして会うことも含むの?
さっき茂みの影で待ってたよね?
そんな僕の非難めいた視線など気にする事もなく、二人は会話を続ける。
「それで何で二人は腕組んでるのかなぁ?」
ですよね〜、僕が優美と付き合ってたのはサークルではだいたいの人が知ってるし。
「え? 私の王子様ですし、彼女と別れたのよね?」
おい、ちょっと待て。 何で僕が優美と別れた事を知ってるんだ?
「え? 拓海君カノジョと別れたの?」
「まぁ はい。 三週間くらい前に」
「別れたなら報告しなさいよ、あなたフリーの子みんなに好印象なんだから」
「あら、もうダメよ。 私がツバつけたんだから」
そうなのか?
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