少し歪な愛の詩
私池
起 ー 振られた
「タク、ごめん」
え?
何で謝るの?
急な「ごめんなさい」に思い当たる節もなく、戸惑う僕に優美が言う。
「この前知り合ったM大の人に告白されて、付き合う事になった」
高一で付き合いだして三年、周りからはバカップルと言われる程度には仲が良かった僕達の恋は優美の一言で突然の終わりを迎えた。
まだ大学生だし、結婚とかは考えてなかったけど、このままずっと二人でいれたらいいな、くらいには思ってたのに。
「あのね、最初は......」
優美の言い訳をまとめると
・グループの付き合いで、保護者代わりに友達の兄とその恋人が同行
・何度か皆んなで会ってるうち、ある日偶然友達兄と駅前で会う
・僕達の事も含めて相談する様になる
・友達兄が彼女に振られる
・慰めているうちに
・この前肉体関係を持ってしまった
だとさ。
僕達はお互い初めてで、最初はぎこちなかったけど、今は二人共気持ち良くなれたし、それなりにデートもエッチもしてたのに。
何がいけなかったんだろう。 やっぱり学校が分かれると続かないのかな。
でも僕に黙って他の男と会ってたんだ。 これってNTRってヤツ?
なんか急に目の前の優美が、優美という名前を持った僕の知らない物体に思えてきた。 あれ? 僕もしかして壊れた?
などとしょうもない事を考えていると、その優美だった物体がまた日本語をその口から紡ぎ出す。
「それでその人、一輝も一緒に謝りたいって」
「いいよ、別に僕達婚約してた訳でもないし」
「でも」
「それに僕も優美達の自己満足に付き合う気もないし、付き合わなきゃいけない義務もないから」
「自己満足って......ちゃんと謝罪しようとしてるのにひどい!」
「だってそうじゃん、謝ってもらって何が変わるの? 僕は気分が悪くなる事はあっても、何か良くなる事なんて何もないよね? 変わるとしたら優美達の罪悪感が少なくなるだけでしょ? それに優美達が一緒に謝って、終わったら二人で一緒に帰るのを僕が見せつけられても、僕が落ち込むだけだよね? それとも謝ってもらうことで僕は救われるの?」
「そうかもしれないけど、私達だって悩んで、誠意見せなきゃって」
「誠意? 本当に誠意あるならまず二人がくっつく前に僕に相談とかない? それ以前に彼氏がいるの分かってて優美を口説いて、自分が経験したのと同じ苦しみを僕に押し付ける事のどこが誠意なんだよ!」
怒鳴って泣き叫びたい気持ちを必死に押しとどめていたけど、最後だけ語気が荒くなってしまった。
「ごめんなさい......」
そう言うと優美は俯いたまま黙ってしまった。
「仕方ないね、もうどうなるワケでもないし。 お幸せに」
せめて気にしてないフリしないと自分が惨めすぎる気がして、テーブルの上に千円札を置くと平静を装いながら古い、時間が止まっていそうないつもの喫茶店から外に出る。
もう春が近いんだろう、風のない陽だまりは上着が必要ないくらい暖かかった。
午後の太陽は眩しく、手を翳してみても、その光の強さに思わず涙が溢れてしまう。
おかしいな、下を向いても涙が止まらないや。
それでもここから離れないといけない。 絶対優美なんかに弱い所は見せたりしない。 その思いだけで鉛のような両足を引きずりながら喫茶店から遠ざかる。
家に帰ると自分の部屋にあるベッドに顔から倒れ込む。 枕で声が漏れないようにして、僕は声を出して泣いた。
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