第5話 『箱の中身』
「ナ、ナミラ?」
「お、おい。大丈夫か?」
心配そうに見つめるアニとゲルト。
そんな二人に、ナミラは笑って返した。
「うん、大丈夫だよ。この木箱はカラクリの玩具だね」
「あ、あぁ。古いもんだが、箱にいろいろ加工がしてあってな。数百年前のもんだが、朽ちることなく当時のままらしい。さらには、カラクリが複雑過ぎて今まで誰も開けたことがないんだと」
「えー、なにそれ」
アニは笑いながらダイヤに触ろうと手を伸ばしたが、動きを読んでいたゲルトに軽くかわされた。
「細かく言うと五〇二年前。ラーベっていう超天才細工師が技術の
「……なんでお前が誇らしげなんだ?」
無意識に箱を掲げて胸を張っていたナミラは、慌てて姿勢を戻した。
「ね、ねぇゲルトさん。この箱いくら? 買うよ」
「お代はいらねぇよ。お前がいなきゃ、このダイヤ様に気づかなかったんだから」
「そのダイヤの半額で【解析眼】教えてもいいけど? そしたら、自分でも鑑定できるでしょ?」
ナミラが意地悪な笑顔でニヤリと笑った。
「遠慮しとくぜ。そりゃあ、商人なら覚えれば儲けられるだろうよ。でも、代償が他の魔法が基礎魔法しか覚えられなくなるっていうんじゃな。旅する個人行商には、リスクが高すぎる」
ゲルトは舌を出して断った。
ゲルトが再びアニからダイヤを守り始めると、ナミラはこっそり自分に【解析眼】を使った。
そしてラーベの持つ回復系中級魔法の会得を確認し、自分にはデメリットがないことをほくそ笑んだ。
それから一〇分ほどで、すべての商品を解析し終えた。
あのダイヤを超える品物はなかったが、思わぬ収穫にゲルトは大満足と言わんばかりに笑っている。
「ほらよ、今回の報酬。色つけようか?」
「いや、あの箱もらったし。いつもの金額でいいよ」
「ねぇねぇゲルトさん。わたしにも、なにかくださいな」
甘える猫のような声で、アニが手を出した。
「ったく、じゃあこれやるよ。その代わり、いつも言ってるがこのことは内緒だぞ? 広まったらナミラが困るんだからな」
ゲルトは小さな手のひらに、偽物の指輪をひとつ置いた。
「えー! やだ! 本物がいい!」
「ばか。今はそれでいいんだよ」
ゲルトはアニの肩を抱いて、耳元でささやいた。
「本物の指輪は、好きな人からもらうもんだろ?」
ハッとしたアニは、後ろで箱を眺めるナミラを盗み見た。
「た、たしかにっ!」
「今はそれつけて、指輪が似合う女ってとこアピールしとけ。そうすりゃ大人になって、とびきりのもんがもらえるぞ」
ニヤリと笑ったゲルトに、アニはきらきらした瞳で何度もうなずいた。
「さて、そろそろ行くかね。まずは村長んとこから売りつけるか」
指輪をはめた手を空にかざして嬉しそうにくるくる回りだしたアニを尻目に、ゲルトは荷物を担いだ。
「……なんか余計なこと言ったでしょ?」
「なんのことだ?」
冷ややかな視線を送るナミラに、ゲルトはまたニヤリと笑った。
「お、そうだ。お前にもこいつやるよ。切れ味はいいんだろ?」
ナミラが受け取ったものは、先ほど装飾が偽物だと言ったナイフだった。
「え、いいの?」
「あぁ、お前なら危ないことには使わんだろ。ところで、その箱開きそうか?」
ゲルトはラーベの木箱を指さした。
「う、うーん。どうだろ、本当にまだ開いたことないみたいだし」
「お前でも難しいか。もし開いたら中身、教えてくれよ? これ作った国は魔法大国だったらしくてな。それを開けたら魔法で封じられた悪霊が出てくるんだとぉ!」
「ははは……」
ゲルトはナミラを怖がらせようとしたが、乾いた笑いが返ってきただけだった。
「んだよ、こういうとこは子どもらしくしてねぇと、かわいくねぇぞ?」
「大きなお世話だよ」
ゲルトはナミラの頭をつつくと、荷物を持って村長邸へ向かった。
小さくなるゲルトを見つめながら、ナミラは小さな声で「悪霊のほうがマシかもね」と呟いた。
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