幽霊捕獲作戦
両親と田舎暮らしをしている中学生のJさんには霊感がない。が、小さいころから不思議なことを体験してきたせいか、幽霊が実在することについては疑いを持っていなかった。
たとえば、テーブルの上に置いてあるグラスが突然、パ、と消えたり、誰もいないはずのトイレの明かりがなぜか点いていたりするようなことが家の中で当たり前のように起こっていた。Jさんの父も幽霊を信じていて、なにか悪い事態に遭うと「幽霊が悪さをしているんだな」とつぶやいたりしていた。
ある日、ふと、Jさんは思った。霊感のない自分には幽霊は見えないが、幽霊を誘き寄せて捕獲することはできるのじゃないか、と。思いついたことはすぐに決行する性格であるJさんは、その日のうちに、幽霊を捕獲する方法を考え出した。
それは次のようなものだ。幽霊は姿が見えない存在であり、ある意味、透明人間であるから、他人のプライバシーに土足で踏み込めるわけである。そんな幽霊たちは、誰にも見せないような人間の一面を見たがるのではないか。とすると、Jさんが奇々怪々な行動をすれば、不思議がってのこのことついてくるような幽霊もいるのではないか。
Jさんは、その考えをもとに、その夜に近場の山中へと足を伸ばした。そうして意味もなく、暗い山の中でシャベルを使い、地面に穴を掘り始めた。そのような行動をする意味はない。ただ、不可思議な行動をしているぞと幽霊たちの好奇心を掻き立てることができれば、それで成功だった。
中学生の女の子が真夜中に穴を掘っているなど、不可思議どころか、狂気そのものだ。Jさんは、そんな奇妙な行動を続けたのちに、そろそろ幽霊が集まってきたのではないかと考え、隙をついて、その場でシャベルをぐるりと回した。
Jさんを中心にしてシャベルが半回転したとき、ばしん、とシャベルが透明ななにかにぶつかった。それなりの硬さのある物体だったが、シャベルが食い込むくらいの柔らかさはあった。もういちど、同じところにむかってシャベルを振り下ろすと、また、ばしん、と強い衝撃があり、シャベルは透明な物体に激突した。
何度か叩いていると、仕留めたという手応えがじわじわと込み上げてきて、幽霊がぼろぼろになって倒れ込んでいるようなイメージが頭から離れなくなった。Jさんはシャベルを置いて、手を伸ばした。
なにかに触れるのではないか、と思ったのだが、右手の皮膚感覚を刺激したのは激しい痛みだった。Jさんは絶叫し、慌てて、右手を引っ込めた。それからシャベルをそのままに逃げるようにして山から下りてきた。
自宅についたときにあらためて右手を見ると、その手の甲に、人間の歯形と思われるものがくっきりと刻まれていた、という。
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