第13話
ある朗らかな昼下り。俺は場末の純喫茶でコーヒーを愉しむ。周りにはぱらぱらとスーツ姿。たまにはこんなコーヒーブレイクも良い。
「いい天気だねぇ。マスターいつものを。」
隣に草臥れた男が腰掛ける。どうやら常連客のようだ。新聞を拡げ寛いでいると程なくコーヒーとサンドイッチが届き、男が食べ始める。
「こないだのいじめの件が久しぶりにでとるな。」
何故かこちらに聞かせるかのように独り言を喋りだす。
「嫌な事件だったな。」
「院に送られたらしいが、4ヶ月ほどで保護観察に変更されたらしい。」
「ほぅ…。」
「どうやら手を回した奴が居るとの噂だ。」
「面倒な相手が居ると…。」
「慎重にな。あんたが思っているよりは厄介そうだ。」
「ご忠告痛み入る。」
男は新聞を下ろすことなく話を終える。男の前にチップを置き退店する。やれやれ今回は思った以上に闇が深そうだな。
*
カラン・・・
依頼人が扉をくぐる。いつもの場所に腰を掛けビールを上手そうに飲む。今日は少し疲れた様子に見える。何か用があって来たのかと思ったが・・・。
コンッ
「今丁度、引き継ぎの佳境でしてね。残業に次ぐ残業です。」
「それはそれは、ご苦労様です。」
「引き留められもしましたが、なんとか今月中には片付けられそうです。自宅ももう不要ですので、売ってしまおうかと。」
「以後どうされるおつもりで?」
「まぁ安いアパートにでも引っ越しでもしようかと思っております。」
カランカラン・・・
派手なコートを着た三枝が顔を覗かせる。どうやら外は大雨のようだ。傘とコートから水がしたたり、入り口に水たまりができる。
「そういうことなら、私に売っていただけないかしら?もちろん行く宛が決まるまで、居ていただいてもかまいません。」
「あなたは?」
「私は三枝。そこのバーテン、一木の元同僚よ。」
「はぁ・・・。」
急な展開に四宮は生返事をするのがやっとのようだ。困った表情でこちらを見てくる。三枝は雨がうっとうしいとのことで爽やかな風味のカクテルをご所望だ。夏には早いがキュウリを使ったモヒートを出す。キュウリの薫りが爽やかさを出してくれる。個人的にも好きなカクテルの一つだ。
「あら、キュウリ・・・?」
「うまいぞ」
「ふぅん・・・。あら、案外飲みやすいわね。」
「俺も初めて飲んだときは衝撃を受けたさ。」
「ほほぅ。私にもいただけますか?」
四宮にもカクテルを出す。少し驚いたような表情であったが、どうやら口に合ったようだ。
「話を戻すけど、場所と値段次第ではあるんだけど、そろそろ家を買おうかと思っているの。よろしければ売っていただけないかしら?」
「まぁそういうことでしたら、今度ごらんになりますか?」
「決まりね!是非お願い!宅建取引主任者でしたら知り合いにおりますので書類などで困る様なら手配しますわ。」
「何から何まで・・・、助かります。」
三枝は確か自宅を既に持っていたはず・・・。諜報部員であることから敵も少なくないだろうし、セーフティハウスあたりにするつもりかもしれない。
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