第7話 試飲

 一か月ほどして依頼していた薬草などが届いた。

「手に入れるの結構大変だったんだから!かかった費用は報酬から引かせてもらうわ!」

 なんともケチなやつだ。まあめったに手に入るモノではないからこれくらいは承諾するしか無い。


 ゴリゴリゴリ・・・

 半日かけて秘薬を完成させる。充分な換気を行い、所属中に倉庫で見つけそのまま失敬していた85式マスクを外す。30年前の代物だがまだまだ使用に耐えるようだ。


ピピピ・・・

 時間になったので麻田の家に向かう。最新のタワーマンションの最上階だ。何でも逃げ道はないが見通しが良く襲撃を受けにくい。周囲に高層ビルがないので狙撃も困難だ。

 土地所有と管理会社がフロント企業のようで入居の制約もない。ずいぶん都合の良い物件があったものだ。


ピンポーン

 呼び鈴を鳴らし入れてもらう。

「どうもこんにちは。」

「時間ぴったりやな。」

「昔からの癖でして。」

「ははは!さよか!・・・で、その袋はなんや?」

「以前、起ちが悪いと仰っていたので以前チベットの知人に教えてもらった秘薬を作ってきたのです。」

「チベットぉ?」


 案の定、怪訝な反応を見せる。

「ええ、チベットでは伝統的な医学がありまして、中には男性機能、女性機能を改善させるモノがあるのです。」

「ほぉう。やばいのは入ってへんのやろな?」

「もちろん。麻薬の類いは入っておりませんが、効果が非常に強いので一度に大量に服用すると毒にもなります。」

「ちなみにどれくらい効くん?」

「繁殖期が終わったゾウでもスプーン一杯で盛り出す代物です。ヒトであれば100歳のおじいちゃんでも毎日茶さじ一杯服用することで10代の精力を取り戻すことが出来ます。」


ゴクリ・・・

 麻田がのどを鳴らす。舎弟達もサングラス越しでもわかるほどギラついた目をさせる。

「おいお前、ちと飲んでみぃ」

 痩せ気味の中年の黒服が指名される。

「じ、自分ですか?」

「せや。お前、最近嫁さん楽しませきれへんゆってたやろ?」

「は、はい。」

「嫁呼んで一緒に飲め。」

「は・・・はい・・・」


 20分ほどで到着するとのことなので、今から煎じていく。

「女性用のも、お持ちしていますが、こちらも試されますか?」

「もちろんや。おお、そうや!お前らも嫁さんと愛人よんどきぃ。」


ガチャリ

「お、お待たせしました。」

少しケバい化粧の女が来る。

「おぉすまんな急に呼び出してもうて。」

「いえ、お呼びとあれば駆けつけるのが極道の妻でございますので。御用は何でございましょうか?」

「いや、ナニ。儂のお気に入りの按摩がな、チベットの秘薬を作ってきてくれてん。何でも10代くらいの若さを取り戻せる代物らしいねん。」

「そ、そんないい物を私に?」

「せや。せっかくやから皆にも使てもらお思てな。」


コトリ

 薬湯を淹れ、中年夫婦の前に置く。

「どうぞ。」

「い、いただきます。」

「香りは・・・不思議な感じね。」


コクッ

「お、結構旨い」

「なんか少し身体が軽い気がするわ。」

「なあ、お前さ・・・」

「あ、あなた、何かしら?」


 二人が上気し出す。麻田が驚きの表情を浮かべるがすぐにニヤッと下卑た笑みを浮かべる。

「おまえら、奥の部屋使ってええぞ。風呂もあるからゆっくりしていき。」

「お、恐れ入ります・・・。」

「どうやら効果はホンマもんみたいやな。お前らも子供部屋増やしときぃ。」

「は、ははは・・・」

「よっしゃ儂も少しもらおか!奴の半分の量にしてくれ。流石に体力が持たんかもしれんからなぁ。」


 隣室から激しい嬌声が漏れ聞こえる。おそらく40週後にはベビーラッシュになっていることだろう。少し湯気をすってしまったせいか俺もその気になってしまったな。まあボーナスでいつもよりかなりいい金額をもらったことだし、任官中からの行きつけの風呂屋にでも顔を出すとしよう。

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