第8話 任務完了

「いやぁ、めっちゃええわ。ありがとなぁ。」

 麻田の玄関を入るが早いか、満面の笑みで出迎えてくれる。以前よりはやややつれたような印象を受けるが、それでも肌艶はよく、眼光は鋭い。


「これ、めっちゃよくてな、おかわりもらえへん?」

「そう思って、今日は多めに用意してきました。」

「おー流石やな!」


 お礼と共に前回よりもさらに分厚い封筒を渡してくる。これには思わず笑みがこぼれる。

「お、お前さんも悪い顔できるやないか!」

「こんなに頂いていいんです?」

「なに、これほんの気持ちよ!結構手に入れるのに骨折れるんやろ?打ちのボスにも少し回してえらい喜ばれたし、せやせやボスからの心付けもあるさかい、ちと待ってな」


 革張りの高いソファに腰をかける。それと同時に愛人がコーヒーを淹れてくる。この強い薫り・・・コピルアックか。ふむ・・・ジャコウネコのうんこと思わなければいい香りだ。


「ずいぶんいいコーヒーを頂いて、ありがとうございます。」

「いいえ、私も愉しませていただいておりますので。」


ドンッ

 黒檀のテーブルにアタッシュケースが置かれる。まるで映画の裏取引のようだなどと思っていると、麻田がおもむろに中を開ける。ピン札がこれでもかと言うほど入っている。


「・・・。私は配下に入る気はございませんが?」

「うあっはっはっは!ここまではっきり断られたらしゃーないな!まあ、これは会長からの謝礼や。もろときぃ。」

「はぁ、それでは今日の分ですが、前回より少し沢山材料が入りましたので多くなります。」

「ほほぅ。ええな。丁度そろそろもう少し効きよくしよおもてところや。」

「他の方は・・・?」

「わ、われわれは・・・その・・・」

「こいつらは前回のアレで出来たみたいでな!飲んでも発散できひんから要らんそうや。」


 ヤクザといえど子供が出来るのは悪いことじゃあない。子供が出来なきゃ我々の年金も払ってもらえなくなりかねんしな。

 

 何時も通り入念にマッサージを施行し、帰宅する。軽く一服付け、バーの開店作業を進めていると、電話が入る。麻田が腹上死した。いつもの倍量服用し、まるでけもののような性交を行ったかと思うと恍惚な表情を浮かべたまま動かなくなったとのことだ。




カラン・・・

 ずいぶん耳の早いことだ。どうやら完全にマークされていたらしい。


「こんばんわ」

「これは三枝一佐殿。お久しぶりです。」

「聞いたわ。」

「腹上死のようです。」

「ある意味男の死に方としては、素敵じゃないかしら?」

「ぞっとしませんね。」

「でもそんなに効くのなら、今度私にも欲しいわ。」

「どなたか当てが?」

「死にたいのかしら?」


 般若のような表情を剥けてくる。これは地雷だったようだ。次回以降があるなら気をつけよう。


「まあいいわ。これは約束の酒代よ。今度のカクテルも期待しているわ。」

「・・・ごひいきに」

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