第5話 接触

 依頼人の裏取りがとれたので、標的について調べをいれる。ドラッグはだいたいどこのヤクザでも扱っているものだが、大体は元締めになるだけで姿は見せない。実際に扱っているところが見つかれば警察に踏み込まれるからだ。

 証拠品が燃えたことから潜伏場所を遷した可能性が高い。まずは標的の情報を整理する。

 

 標的が所属する暴力団は覚麻組かくあさぐみ。名前は麻田友基あさだともき、56歳。かつては三・一抗争で大暴れし一昨年まで収監されていた武闘派ヤクザだ。あまり頭の切れる奴ではないが周囲に気を配ることから慕われていたと聞く。


「ま、どんだけ慕われていてもヤクザでヤクの元締めしているんじゃぁなぁ。」


 二ヶ月ほどの偵察で見えたのは週に一度マッサージに通っていること、愛人を囲っていること。直接取引に顔を出さないからか、ヤクを扱っている確証は得られなかった。


 運良くマッサージ店では新規従業員募集していたため、店には簡単に潜り込むことができた。


「お、兄ちゃん新人か?」

「ええ、先週から入りました。」

「ほしたら今日は兄ちゃんにしてもらおか。」

「ありがとうございます。」


 チベット潜入工作時に身に付けたチベット式按摩を炸裂させる。腰が少々悪いようだ。念入りに按摩していると気に入ったのかすっかり寝てしまった。


「おお、兄ちゃん、えらい上手いな!」

「以前、チベットの方に教えていただく機会がありましたので。」

「ほぉぉ。随分珍しいのぉ。あー、腰が楽になったわ。」

「随分と腰をお使いのようで。少し腎虚にもなっておりますね。」

「なんやそれ。」

「体内の水を動かす力が弱っているのです。」

「ほぉ。なにゃむずこいのぉ。せや!兄ちゃん、今後ウチによんでもええか?」

「もちろん、構いません。」


 上機嫌の麻田が俺を呼んでくれることとなった。これで任務遂行がしやすく成る。どのように始末するか・・・クライアントに報告がてら話してみるか。

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