第3話 初依頼

 だいぶこの街に馴染んで来たと思う。呼吸するように駄洒落を言う筋肉坊主が来たり、こちらから居酒屋に赴いたり。そんな感じに一月程のんびり過ごしていた。

 

 そんな生温い時間は終わりを告げる。あの女がまた来た。

「相変わらず無愛想ねぇ。」

「性分ですので。」

「ふふっ。まあいいわ。・・・ところでこの男を知っていて?」


 ちょい悪オヤジのようなジャラジャラした中年の写真を出しながら、問うてくる。

「存じません。」

「こいつはね、平たくいえばヤクザね。違法薬物の流通を行っているわ。」

「・・・生け捕りにしろと?」

「それができたらすでに逮捕してるわ。」


 女が大きく嘆息する。苦虫を噛み潰すような表情で、つぶやくように言葉を紡ぐ。

「先日、警察署で火事があったでしょ?」

「まさか・・・」

「そ、燃えちゃったわ。証拠品が全てね。」

「・・・それで私に依頼ですか。」

「特戦群にまで行った貴方なら、って思ってね。」

「なるほど。で、報酬とこの身の安全は?」

「報酬は前金で500万円。成功したらもう500万円。身の安全はそうね、不要だと思うけど、すでに貴方の周囲に私の部下達が居るわ。」


 報酬が安いように思うが、こいつ個人の権限ではこれが限界なんだろう。何より初仕事だからな。まずは安くとも信用を得るのが先決か。


「用心深いわね。それでこそ依頼できるってものね。また来週、この時間に来るから返事はその時にお願いね。それじゃあね。」


 カルーアミルクを空にし、多すぎる代金を置いて退店される。ふむ、少し探りを入れてみるとするか。

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