第20話:第4章③vs角田③

 8―8

「はぁはぁ」

 須磨は息を切らしていた。

「あら、体力切れ?」

 角田は息一つ切らさずに余裕の笑み。

「そんなわけねぇだろ。体力には自信があるんだよ」

「あら、そうなの?」

「あぁ、小学の時に野球していたからな」

「あらすごい。かわいい時があったのね」

「なんだと!」

「ほんとうにかわいいわ、たかが小学生の力を自慢してくるなんて」

 この角田の冷ややかな目線に、須磨はゾクッと背筋を冷やした。

「なっ。ふざけんな」

 須磨はサーブを打った。

 角田は返した。

 長いラリーが続いた。


 パン!


 須磨のポイント

 9―8

「はぁはぁ、よし!」

 須磨は汗だくの中、ガッツポーズ。

「ガッツあるわね、元野球少年」

 角田は汗ひとつ書いていない。

「このまま行くぜ」

 須磨のサーブ。

 角田のレシーブ。

 長いラリー


 バフっ


 須磨のミス。

 9―9

「はぁはぁ、くそ」

「へいへいピッチャービビっているー、だっけ?」

「そうだけど、そうじゃないですよ」

 須磨は苛立つ元気もない。

「そう?じゃあ、サーブするわね」

 角田のサーブ。

 須磨の返球。

 長いラリー。


 パン!


 須磨のボールは力強く外れた。

 9―10

「はぁはぁ、くそ」

 須磨はフラフラしていた。

「あなた、体力に自信があると言ったけど、それは小学生程度の話でしょ?中学生の体力を舐めるんじゃないわよ」

「舐めてねぇよ。実際、今まで練習では体力で負けたことねぇよ」

「それは練習の話でしょ?試合はまた違うわ」

「……そのようだな」

 須磨は否定する元気もない。

「それに、カットマンと戦うことなんてなかったでしょ?特に私レベルのカットマンとなんて」

「たしかにそうだな」

「だったら疲れても仕方ないわよ」

 角田はサーブを打った。

 須磨はレシーブ

 長いラリー。


 カスっ


 角田のボールがネットアウト。

 10―10、デュース

「はぁはぁ」

「あら、残念」

「はぁはぁ。あまり残念そうに見えないぜ」

「そんなことないわ、残念よ。あなたがね」

「はぁはぁ。俺が残念だと?」

 須磨は霧のように意識朦朧。

「そうよ。あなたも既に気づいているかもしれないけど、私の目的はあなたの体力を奪うことよ。ポイントの1つや2つを犠牲にしてでも相手の体力を奪うの。そうすれば相手は後半にバテて、精細が欠いてしまう。そこで相手が自滅するのをわたしはただ待てばいいのよ。だから、デュースでさらに体力がなくなるあなたが残念なのよ」

「はぁはぁ。よく喋るね」

「先輩からのご教授よ。さぁ、そろそろサーブ打ちなさい」

「わかりましたよ」

 須磨のサーブ。

 角田のレシーブ

 時間が経過。


 15―15

 何回も同じ光景が起きていた。サーブ、レシーブ、ラリー。ひたすらそれを繰り返していた。何ポイントも何ポイントも。

 体から蒸気を出している須磨はサーブ。

 汗もなにも出さない角田はレシーブ。

 ラリーが続く

 そんなやり取りが続く。


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