第19話:第4章②vs角田②
ススっ
須磨のカット返球はネットに阻まれた。
1―3
「くそ」
「だーかーら、その汚い口調はやめてよ」
「うるせーよ。くそでも別にいいだろ」
「くそくそはしたないわよ」
「おめーも言ってるじゃねぇか」
ぎゃーぎゃーぎゃー。
……
「――口調のことはあとでいいわ」
「――そうだな、試合の続きをしよう」
2人は少し頭が冷えた。
「それにしても、あなた、カットが苦手みたいね」
「どうしてそう思うんだ?」
思わぬ発言を聞いたように須磨は眉をひそめた。
「さっきのカットを見たからよ」
「1回ミスっただけだろ」
「いーえ。その前から思ったわ。不安そうに下手なカットを打ってきた時からね」
「なに?」
須磨はそんなことでわかるのかと言いたげだ。
「大虎との試合のことを聞いたわよ。あなた、ほとんどスマッシュ系統の強い球しか打たなかったんでしょ?」
「それがどうした。悪いか?」
須磨は明るく開き直る。
「悪くはないわ。大虎だってドライブばかり打っているし、わたしだってカットばかり打つわ」
「じゃあ、問題ないじゃないか」
「そうね。でも、普段から打たないということは、上達しないということよ。だから、あなたはカットが下手なの」
「それがどうした。全部スマッシュで打てばいいんだよ」
「それができていないでしょ?だから下手なカットを打っているんでしょ?」
「ぐっ」
所謂、論破。
「特にサーブはレシーブと比べて打球がネット際に弱く来るから、スマッシュしても失敗する可能性が高い。だからカットで凌いでいるんでしょ?」
「そ、それは」
「それは別にいいと思うわ。ドライブとかで返す技術はまだないんでしょ?」
「でも、スマッシュで返すこともできる」
「それは、下手な人のカットだったらでしょ?自分で言うのもあれだけど、私、カットは上手な方よ。だから、カットで返しているんでしょ?」
「あぁ、そうだよ」
須磨の声は窖の中のように小さかった。
「ようやく認めた。かわいいわね」
「しかしな、それでも勝つのは俺だ。お前のカットは俺が破ってやるで」
「……可愛くないわね」
火花がバチバチしていた。
「それに、次は俺のサーブだぜ」
須磨はサーブ。
角田の返球。
「それなら」
須磨はスマッシュ。
角田の返球。
「どうだ」
須磨は再びスマッシュ。
角田は返球。
――そのやり取りが数回続いた。
「――いい加減にしやがれ」
パン!
須磨のスマッシュが決まった。
2―3
「どうだ!」
「頑張ったじゃない?」
「上から視線だな」
須磨は下から目線で見上げた。
「でも、一分くらいスマッシュを打ち続けるなんて、すごいタフね」
「そうか、ありがとな」
「まぁ、どちらかというと一分くらいスマッシュを返し続けたわたしの方がすごいのだけどね」
「自画自賛かよ!」
自分に酔いしれている角田に須磨はサーブ。
角田は同じようにカット返球。
須磨は同じようにスマッシュ。
同じようにラリーが1分続いた。
シュッ
角田のボールがネットに当たって自陣に落ちた。
3―3
「さっ!」
「今回も頑張ったわね」
「だから、どうして上から目線なんだよ?ポイント取られているだぞ?」
「いいじゃない、別に。ポイントの1つや2つくらい」
「なに?!」
須磨は眉間の血管をピキンとした。
「なによ?」
「ポイントの1つ2つくらいだと?勝負を舐めているのか?」
須磨は血管をピキピキいわした。
「舐めてないわよ、別に」
「1ポイントを馬鹿にするやつは1ポイントに泣くぜ」
「1円を馬鹿にするやつは1円に泣く、みたいに言わなくても」
角田は苦笑い。
「そんなことより、次は先輩のサーブだぜ」
「分かっているわよ」
角田のサーブ。
須磨はカット返球。
「やっぱりサーブは強く返せないのね」
角田は嫌味っぽく返した。
「うるせぇよ」
須磨はカラッと返した。
再び1分ほどラリー。
パフっ
須磨はネットアウト。
3―4
「くそ」
「もうその言葉には反応しないわよ」
「始めっから反応するなよ」
須磨の嫌味。
「なによ、あなた。少しは先輩を敬いなさいよ」
「あんたも大虎先輩みたいな事を言うんかい!」
互いに指さしした。
「ハクション」
大虎はくしゃみした。
それ以降も、須磨と角田との試合は続いた。何分も、十何分も何十分も続いた。1ポイント取るのに1分以上、それが何ポイント分も続いた。
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