第17話:第3章⑥vs大虎⑥

 パン!


 須磨の返球がきれいに大虎の横を抜けていった。

 5―8

「なっ?!」

「さー!」

 須磨は雄叫びをあげた。部室の中で響き渡る。

「本当に破ったのか?それとも、まぐれ?」

「破ったんだよ、先輩」

「……信じられねぇな」

「じゃあ、もう一回破ってやるよ」

 須磨はサーブ。

 その後、数回のラリーの間に、大虎はネットインと普通のレシーブををしたが、須磨にことごとく拾われた。


 パン!


 再び須磨のポイント。

 6―8

「本当に破ったのか?」

「だから言っただろ。破ったって」

「いったいどうやって」

「ネットインに合わせたんだ」

「どういうことだ?」

 大虎は茫然自失気味。

「普通、ネットインしない普通のボールに合わせてネットインした時だけその対応するだろ?でもその逆に、ネットインするボールに合わせて普通のボールが来た時だけその対応をしたんだ。そうしたらうまくいった」

「なんだと?どうしてそれで打てるんだ」

「それは俺にもわからない。でも、事実としてそれで俺は打てた。まぁ、野球でいったらイチローの振り子打法みたいなものだろ」

 須磨はコーチみたいにそう説明した。

「あぁ?何格好良い風に言っているんだ?恥ずかしくねぇのか?」

 大虎の発言に須磨は頬を染めた。

「うるさい。別にいいだろ」

「別にいいけど、さ」

 大虎のサーブ。

 須磨の返球。

 大虎のネットイン。

 須磨は拾う。

 大虎は綺麗にドライブイン。

 須磨は綺麗に返球。


 パン!


 須磨のレシーブは綺麗に決まった。

 7―8

「……どうやらハッタリじゃないらしいな」

「当たり前だろ」

 肉食動物のようににらみ合う。

「それでも、負けねぇよ」

 大虎のサーブ。


 パン!


 須磨は速攻を決めた。

 8―8

「先輩、サーブが少し甘かったですよ。動揺しているんだすか?」

「くっ」

 須磨の威圧感に大虎は声が出なかった。

「次、サーブいきますよ」

 須磨のサーブ。


 パン!


 そのままサーブが決まった。

 9―8

「逆転っと」

「くそっ」

「先輩、反応できないなんて、らしくないですよ」

「ほざけ。来い」

 小学生のような須磨の挑発に乗る大虎。

「いきますよ」

 須磨のサーブ。


 スンっ


 大虎のレシーブボールはネットに当たり、そのまま大虎方向に落ちた。

 10―8

「マッチポイントだぜ」

「ぬかせ」

「悪いけど、このまま勝てせてもらうぜ、先輩」

「ぬかせ」

「さっさとサーブしてくださいよ」

「ぬかせ!」

 大虎は声を虎のように荒らげた。

「……逆上したら、ミスしますよ」

「ぬけせー」

 大虎はボールを高く上げた。


 パン!


 ボールは須磨のコートで滑るように進んだ。

 10―9

「なっ?!」

「次行くぞー」

「なんだ今のは?バウンドしなかったぞ」

 須磨は冷静に考える時間が欲しかった。

「はー」

 大虎は高くボールを上げた。


 パン!

 

 再びボールは須磨のラケットの下を括り抜けた。

 10―10。

 デュース、サーブが交互に交代する、2点差を空けたモノが勝つ状態。

「また?」

「しゃあ!」

 混乱する須磨と雄叫びを上げる大虎。

「先輩、さっきのはどうやっているんですか?」

「ふん、自分で考えろ」

「ケチ」

 須磨は小さな子供のように吠えた。

「ふん。さっさとサーブしろ」

「やーだ。まださっきのボールの対策を考えているんだよ」

 小さな子供のように反抗。

「うるせぇ。さっさとサーブしろ」

「うるさい、ばーか」

 さらに子供。

「うるせぇ!」

「ちっ。わかったよ」

 須磨はサーブ。

 大虎の返球は地を這うように滑る。

「くそっ。なんとでもなれ!」

 須磨はラケットを滑らした。

 なんとか返したボールを、大虎は返した。


 パン!


 ボールは須磨の横を通った。しかし、コートにバウンドはしていなかった。

 11―10

「……助かった」

「ちっ」

「でも、どうしてミスを」

「知らねぇよ」

「……はっはーん。わかったぜ」

 須磨は探偵がトリックに気づいたように言った。

「何がだよ」

「先輩、まだその技を使いきれていないでしょ?」

「なっ、なに?」

 大虎は隠すのが下手だった。

「図星だろ?」

「だったらどうだというんだ!」

 大虎のサーブ。地を這うサーブ。

 須磨のラケットは地を這う。なんとか返す。

「うらっ!」

 大虎は強打した。


 パン!


 ボールは外れた。

 12―10。須磨の勝ち。

「……勝った」

「ちっ。外したか」

 大虎は集中力を外した。

「なんか、勝った気がしないぜ」

「でも、勝ちは勝ちだぞ」

「でも、先輩が自滅しただけじゃないか。こんな勝ち方、嬉しくないぜ」

「だったら、今度戦うまでにきちんと勝てるように強くなっているんだな」

 大虎は先輩らしいことを言って、去っていった。

「へっ。格好良い先輩だな。俺もあんな先輩になりたいものだぜ」

 水を飲みに須磨の後を追った。

「――くそ、くそ、なんで負けたんだ、くそくそくそくそー!」

 そう地団駄を踏む大虎を須磨は見てしまった。

「……あんなカッコ悪い先輩にはなりたくないもんだぜ」

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