第16話:第3章⑤vs大虎⑤
バフっ
ボールはネットインした。
1―5
「は、入った」
須磨ははしゃいだ。
「ほー、運がいいな後輩」
「い、いや、ね、狙い通りだぜ!」
「嘘つけ」
動揺している須磨に大虎は冷めた目。
「おー!そうだよ!うそだよ!悪いかこんちくしょう!」
「どうして逆ギレしているんだ?」
「次は先輩のサーブだ!早くしろ!」
「キレながら言うなよ」
大虎は静かにボールを持った。
「(くそ。一球まぐれで入ったが、それでもまだ逆転は難しい。嘘でも逆ギレでもいいから、流れを無理やり持ってこないと)」
そう策略を立てている須磨をよそ目に、大虎のサーブ。
バフっ
ネットインしたので打ち直し。
「またかよ!」
須磨は振りかぶっていた。
「いつ入るかな?」
大虎は猫をかぶってきた。
「いつ入れるのかな?」
須磨は大虎にかぶせた。
大虎は再びサーブ。
パン!
須磨は綺麗に返した。
2―5
「よし、決まった」
「ほお。よく入れたな」
大虎は上から目線で褒めた。
「ああ。よく考えたら簡単なことだ」
「?」
「どんなにネットインしても、サーブの場合は打ち直しになるからポイントを取られるわけじゃない。だったら、キチンと入ってくるボールにだけ反応すればいい」
須磨はっきりくっきり言った。
「そうかい(それはそうだが、それが器用にできるのかこいつは?)」
大虎はサーブ。
ザンっ
ネットに当たったボールがそのまま大虎のコートに落ちた。
3―5
「よし。ラッキーラッキー」
「ちっ」
大喜びする須磨と舌打ちをする大虎。
「へへっ。先輩、集中力が途切れたか?」
須磨はひょうきんに話し始めた。
「どういうことだ?」
「どうやら俺のサーブ対策に動揺したらしいな。そりゃそうだ。先輩を動揺させるためにわざと言ったからな」
「なんだと?」
大虎は動揺をかき消した。
「どうやら先輩は俺の術中にはまったようだな。この勝負、俺の勝ちだぜ」
「へっ。さっさとサーブを打て」
大虎はさっさと構えた。
「(さて、挑発したはいいがこれでもっと動揺させることはできるだろうか?しかし、やれることはなんでもしないとな。それに、サーブと違ってレシーブのネットインはまだどうしたらいいのかわからない)」
そう思いながらも須磨はサーブを打った。
バフっ
大虎からの返球はネットインした。
「はぁあ」
須磨はラケットを伸ばした。届いた。
「よっしゃ」
パン!
大虎は強力なドライブを決めた。
3―6
「よっしゃ、とは決めたときに言うんだぜ」
大虎は須磨にラケットを向けた。
「わかっているよ。それくらい」
「そうか。わかっているなら言うなよ」
「うーす(くそ、やっぱりレシーブ時のネットインはどうしたらいいかわからない)」
須磨はサーブした。
パン!
須磨の背後に綺麗なドライブボールが転がる。
3―7
「しまっ!」
「どうした?反応が遅れているぞ」
「くそ。ネットインを気にしすぎた。普通に入れてきやがった」
須磨は歯ぎしりした。
「次は俺のサーブだぜ」
大虎のサーブ。
綺麗に這いあった。
「ネットインじゃないのかよ」
須磨はなんとか返した。
「そんなにネットインがいいのか?」
大虎の返球はネットインした。
「くそ」
須磨は手を伸ばした。
カッ!
なんとか届いた須磨のラケットが大虎のコートにボールを運ぶ。
4―7
「届いた?」
須磨は自分のラケットの当たったところを眺めた。
「ほー、よかったな」
大虎のサーブ。
「また、普通に入れるのかよ」
須磨は返した。
「おら」
再び大虎のドライブがきれいに入った。
「このやろ」
須磨はきれいに返した。
「おーら」
バフっ
大虎のボールはネットイン。須磨のラケットの横をそのまま転がっていた。
4―8
「今度は届かなかった?」
須磨は先ほどとの違いを考えた。
「へっ、今度は届かなかったな」
大虎は勝ち誇ったように言った。
「……へっ、確かに届かなかったな」
須磨は大虎を真似して勝ち誇ったように言った。
「どうした?強がりか?」
「いや、そうでもねぇぜ。わかったんだよ」
「何がわかったんだ?」
「先輩のレシーブに対する対策だよ。次は破ってやるぜ、先輩のレシーブ」
須磨は声たかだかに宣言した。
「ほー、そうかい破れるものなら破ってみろ」
「いくぞ、先輩」
須磨のサーブ。
「はぁあ!」
大虎の返球はネットインした。
「はっ」
須磨は返球。
「はぁあ!」
大虎のボールはきれいに返った。
「はっ」
須磨はなんとか追いついた。
「はぁあ!」
大虎は再びネットイン。
「はっ」
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